真選組監察方隊長。
それが彼女の肩書きである。



「はぁあああ、幸せー!!
このニートっぽい生活の為に仕事してるようなもんですよ。」


「長期休暇にしても、自堕落過ぎじゃない?」



自室でだらし無いTシャツ姿で漫画を読む彼女こそ、この前あった討ち入りのMVP。

彼女の潜入があったからこそ、全員捕縛できたといっても過言ではない。


…今は、相変わらずのお面を被っているせいで表情は見えないけど、だらし無い顔をしている事は確かだ。


「ザキさんも長期潜入やってみる?
顔の作り方教えますよー。まず粘土を…」

「無理無理無理!
前に聞いたけど、あんた人に教えるの壊滅的に下手くそだから!」


一応、彼女は上司にあたる存在で。
彼女の忍びの技術は、お偉いさん達からも一目を置かれる程のもの。


声真似や、変装の上をいく擬態(天人製の粘土で顔を元から作るもの)の能力はその筋で有名な彼女の祖父から教えてもらったものらしいが、残念ながら彼女には伝達能力は皆無で、一向に部下が育たないと、この前副長が嘆いてた。


「あ、そういえば、この前の件で沖田さんと恋仲だって噂が流れてるよ。」


「マジでか。あれは、無駄にベッタベタしてきた亀尾への嫌がらせだっつーの。

そもそも一般隊士には私の性別さえ判断ついてないのにな。浮かれてんのか。」


「そろそろその面取ってもよくない?」


「私、素顔見せるのは、おっぱい見せるより恥ずかしいんで。」


バッサリ言ってのける上司にため息が出る。

あんたの素顔への無駄な噂に、翻弄されてる部下達を知らない訳ないだろ。


とまあ、世間話はこの辺にして、彼女の腕を掴む。



「ちゃんとご飯食べろと局長副長一番隊隊長命令です。」


「…モデル体型目指してるから。」


「嘘つけ!!
つか、ナニコレ?!鶏ガラ?!?」


「馬鹿野郎!擬態するには、もうちょっと追い込まないとヤバイんだよ!!

ガリガリモデルに擬態しろって言われたらどーすんだ!」


「ねーよ!そんな任務!!」


「ははーん!さては、私の個性ぶっ潰して下剋上する気だろ!!

よっしゃ、刀を抜け!!」


「めんどくせぇ!!何こいつ!!」



擬態が唯一の個性と自負する彼女はその為には、自分を追い込む事は当たり前みたいで。


その為、長期潜入の後の長期休暇中は、ほぼご飯を口に入れないんだけど、それをよく思ってない人がこの屯所内には大勢いる。(勿論、俺も含む。)


彼女は忍びの修行をしていた幼少期から、こんな生活らしいけど…
俺たちは出来るだけ人らしい生活をしてほしいと思ってるのに、彼女は中々言う事を聞いてくれない。



「そんなワガママ言うなら、沖田さん呼ぶよ!」

「やめて!ご飯食べないけど、やめて!!」



「呼んだかィ。」


ビクッと肩をあげて振り返ると襖に写るシルエット。


油断していた彼女も気配に気づかなかったみたいで、悔しそうに襖を見ると、喉を抑える。


「沖田さん、愛は町に逃げたみたいですよ。
ここはもぬけの殻です。」


俺の声真似をした後、思いっきり喉元を空いてる右手親指で押さえつけられる。


(声出ない…!ってか、痛ェエ!!!)



「そーですかィ。


山崎下がれ。後は俺が調教しまさァ。」


そう聞こえたあと、襖が勢いよく開き、俺の喉が解放される。


「ゴホッゴホッ!!」


「は、離してェエ!!
嫌だ!!ごめんなさいごめんなさい!!お面だけはやめて!!!取らないで!!!」


「前回、ワガママ言ったら取るって言っただろィ。」


目の前には愛に馬乗りになる沖田さんが、ギリギリとお面を鷲掴んでいて。


…彼女のプライドの為、目をそらし、そのまま部屋を出て襖を閉めた。



「待って!行かないで、ザキさん!!
こ、この裏切りもの!!!

や、やだ!!!っ……!!!





………グスッ、…返せ…アホ…!!」



「俺には何回も見せてんだろうが。

ほれ、オニギリ。これ食べたら返してやりまさァ。」



これでいつも通り。

愛と沖田さんは同い年のせいか、なんだかんだ仲がいい。
あの沖田さんが柄にも無く心配しているのは、本当に彼女の身体を想っての事だろう。

安心する反面、ちょっとだけ沖田さんが羨ましくなる。


「ううっ、白米だ…炭水化物だ…」



でもまあ彼女の体調が最優先だからね。

グスグス聞こえる愛の泣き声を聞かなかった振りをして、廊下を後にした。





彼女の日常
(…食べた…グスッ…返せ…。あほ…。)





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