生死の境を彷徨ったあの日から暫く経ち、
お腹の抜糸はまだだけど、なんとか歩けるようになった。
「ちゃんと起きてるかィ。」
「っ…キャー!! 変態!いきなり開けないで下さいよ!」
個室の病室はなにもなくて、徐々に回復していく程に暇になるけど、
私が病室から出て歩き回りるのが心配な上司達がお面を没収したせいで、個人的には凄く面倒な事になっている。
「俺には何回も…ってか、見飽きたから、隠すんじゃねぇや。」
「な、なんか、その台詞卑猥…!」
無遠慮に病室の扉を開けて入ってきた総悟さんに、急いで顔を隠すけど腕を掴まれ、抵抗する。
毎日欠かさずお見舞いに来てくれるのは有難いのだけど、…やっぱり素顔を見られるのはなんか、恥ずかしい。
…彼だけには嫌悪感は全くないんだけど、ただただ恥ずかしくて、 真っ赤になる顔を見られたくないわけで。
(私、めっちゃ乙女だ!)
総悟さんは諦めて持ってきたアイスを取り出し食べ始めるのを、横目にため息をついた。
「腹。」
「あ、あぁ、だいぶんマシです。」
刺された箇所触る。
もうあまり痛くはないけど、やっぱり傷は残るらしい。
擬態するとき…まあ、こんな場所見せる事もないだろうけど、そのときはコンシーラーめっちゃ塗らないと。
ベッドにもたれかかって息を吐くと、総悟さんがベッドに腰掛けた。
「ボチボチ退院だねェ。」
「生き延びましたね、なんとか!
あー、帰ったら、仕事の山なんだろうなあ…。」
「まあ、始末書覚悟しとけ。どんまい。」
「えー、神無月さんもう提出済みなら、私書く必要ないでしょーよ。
……でも、もし書くなら手伝って下さいよ。 総悟さん、始末書のプロでしょ。」
「俺がタダで動くと思ってんのか。」
「…何ですか。
何がほしいんですか?」
じとっとした目線を送っていると、食べ終わったアイスの棒を振ながら、総悟さんは此方を向いた。
慌てて下を向き、顔を隠す。
「……愛。」
「はい?」
「…おめーで我慢してやらァ、始末書の駄賃。」
「わ、私??!」
恥ずかしいながらも総悟さんの顔を見ると、いつも通りの読めないポーカーフェイスとかち合う。
「あんとき、熱烈な告白しときながら今更何渋ってんでィ。
…心配料も上乗せして、駄賃としてはどっこいだろうが。」
「あ、えっと…その…。
あのときは必死だったというかなんというか…!
ってそもそも、いつも通りだったのに、いきなりとか卑怯です!」
顔に熱が集まるのを感じて、手で顔を冷やす。
あのとき何言ったっけ?!
意識朦朧としてたし、ちゃんと覚えてないんですけど!
「……っあー、お前退院したらマジでお面つけろ。」
そう言うと、ぐいっと腕を引かれる。
気がついたら、総悟さんの顔がドアップで、思わず目をつぶった。
一瞬の事で何がなんだかわからなかったけど、
確かに唇には…
「…え、…あ、いま…。」
「…その顔ヤバイ。」
珍しく頬を赤らめて顔を逸らす総悟さんを暫く見つめていると、
次第に覚醒してきて、彼以上に熱が一瞬で集まった。
あれだ。
今、ちゅーされた。
「え、…わ、…私……ど、どうしよう…」
粘土後しにする任務中の接吻じゃなくて、 初めて素顔にされたものは自分が想像していたものより、相当恥ずかしい。
忍らしからぬ動揺っぷりがおかしかったんだろうか、
暫く黙っていた総悟さんが耐えきれず吹き出した。
「わ、笑わないで下さい!」
「ククッ…
本当愛は俺に弱いねェ。」
「自覚はあります…。」
口を尖らせて、そっぽを向くと、自分の手の指に総悟さんの指が絡まった。
「まあ、心配しなくても、責任持って引き取ってやらァ。」
「…私ちゃんと言ったんですよ?
ズルはダメです。」
はぁとため息をつく総悟さんの目を見ると、珍しく優しい顔つきで、
思わず笑ってしまう。
「俺はお前よかずっと前から、好きなんでィ。
…ずっとそばにいろィ。」
「……喜んで!」
ずっと君と (幸せな日々へ。)
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