綺麗な満月の今日。
風が通り、涼しい部屋の前の縁側で総悟さんと月見酒なうです。


「…美味い。

このアテも。」


「そうでしょうそうでしょう。
その煮物、私が作ったんですよ!」


「…毒盛ってねェだろうなァ。」


「私なら、もっとばれないようにしますね。」


たまに、仕事が落ち着いたとき、こうやって二人静かに飲むときがある。


私も飲むから面は外し、お互い背中合わせに座って。

…縁側に座り込む総悟さんの反対側の私からは直接満月は見えないけど、日本酒に映る満月も中々粋なもんだと思う。



「やっと落ち着きましたね。」


「あぁ…、意外と呆気なかったねェ。」


「まだちょっと引っかかるんですけどね。例の事件。

…だけど、また張り込み入ったらたまったもんじゃないんで、憶測の内は黙っときます。」


「そーしろそーしろ。」


モグモグと煮物も食べる音が聞こえて、思わずふふっと笑ってしまう。



例の事件とはこの前の張り込んでいた麻薬取引の件。

監察が身を削って集めた情報で奴らのアジトを突き止め、一番隊だけで全員捕縛し、昨日一件落着したはずのもの。

なんだか呆気なさ過ぎて、裏があるんじゃないかと思ってしまうのは、監察の勘なんだろうか。

…当たらなければいいんだけど。




「…グェ…!お、重たい…。

やめてくださいよ!潰れます!」


「こんときは、仕事抜きっつっただろィ。

余計な事、考えんな。」


思いっきり、背中に体重を掛けられ潰されそうになりながら、お酒を喉に流し込む。



いつも気を張ってしまう私をうまい具合に解してくれるんだよなあ。


…この人の存在って本当有難いと思う。



「…親友って有難いですね。」












「…………………………………………………………まあ、俺は親友って思った事ねェけどな。」




……………………。


「え?…えェエエ?!?!!!
ちょ、それは流石に、流石に駄目です!
この流れ的に駄目ですって!?」


「…………。」


「何か言って下さいよ!
わ、私、勘違いで恥ずかしいし、ショックだし…!」



アワアワと慌てる私を尻目に、彼は杯に入っている酒を飲み干す。


いやいやいや、だって親友って言ってたよね?
私だけそう思ってたって一番恥ずかしいやつじゃないか!


「そ、総悟さ…?」


「………。」


まだ黙っている彼は、ギュッと私の左手を掴む。


「………親友って言うと嬉しそうにするお前が悪いんでィ。」


「えっ…?」


グイッと手を引かれて、素顔が月明かりに照らされる。

急いで狐の面を取ろうとする右手まで固定されて、顔が熱くなるのを感じた。


「や、やめて下さい!!」


急いで下を向き、顔を隠す。

彼がいきなりこういう事するのが、全く理解できなくて、グルグル回る頭で必死に抵抗する。


…素顔を見られる事が嫌いな私に、総悟さんは何もなければこういう事しないはずなのに。





暫く沈黙した後、ゆっくり息を吐いた総悟さんがやっと口を開く。






「…………俺は、ずっと、…お前ん事を……」


そう言いかけたとき、

無理矢理手を振りほどき、お面を顔に被る。


驚いた表情の総悟さんと目が合ったとき、

廊下の先から土方さんが顔を出した。





「取り込み中だったか。」



「…シネ土方ァアア!!!」



「オイ!!
やめろ、総悟!!!」


隣に置いていた刀を引き、土方さんに特攻する彼を尻目に、ホッと胸を撫で下ろす。



案の定、今回の事件がまだ裏と繋がっていたみたいで、その事で出向いたらしい。



また、明日から張り込みが再開するみたいだけど、今回は…総悟さんと少し離れる事になるから、ホッとした。






表情を隠さないといけない筈の忍が、この面の中で真っ赤になっているなんて…。





(…私はもしかしたら、…彼に対して、親友以上の感情を持ってしまってるかもしれない…。)




うるさいぐらい鳴る胸を押さえて、ふっと息を吐いた。






自惚れそうだ
(彼といたら、調子が狂うのは、…きっと……。)





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