君の知らない間に
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時として、無礼講というものが許されるときがある。
それは真選組では、'宴会'という時間。


(いつにも増して酷い!)


今日は新入隊士歓迎会。
というのは名ばかりの、ただの飲み会なわけで。

何かにつけて、飲む傾向があるこの組織に身を置いて数年。初めは、自分だけは酒に溺れない!と意識していた訳だけど、今となればシラフでこの場にいる辛さを知り、最近は少しだけ頂くようになってしまった。


しかし、今日は飲んでいてもわかるくらい、みんなのテンションがおかしい。


(そりゃ…まあ、原因は可愛い女中さんが入ったからだろうけど。)


今まで、女中さんは60代のおばちゃん達が中心だったけど、一人欠員が出た為にこの度、私と同い年の子が新しく入る事になった。

可愛くて、小さくて…そりゃ、みんなお近づきになりたいだろうさ。
オーバーリアクションで気を引こうとしたり、一発芸をして笑わせようとしたり。


……けど、きっとあの子は隊長狙いだと思うんだよなあ。


「隣にピッタリキープして、お酒をつぐときにボディタッチ…これは私の読みは間違ってますかね?ザキさん。」


「当たってるし、彼女ぶりっ子だよね。」


ワイワイしている中心に混ざり辛かった私は、途中参加であのテンションについていけないザキさんと端の方でチビチビ飲んでいた。


「ザキさん言いますね。」


「ああいうタイプは割とめんどくさいから愛ちゃん絡まれるかもね。ファイト。」


「全く心篭ってませんけど??」


というか絡まれるってなんだ。校舎裏でも呼び出されるのか。ええ…怖い。


「ザキさんは、もし、そうなったとき助けてくれないんですか?」


「その場にいたら助けるよ。貸しつけるけど。」


「えぇー。」


「だけど、男はね、時に…ぶりっ子ってわかっててもチヤホヤしたくなるものなのさ!」


彼はそう言い残し、素敵な笑顔を浮かべながら、輪の中心に飛び込んでいった。


(あ、アホだ。)


ふと、ザキさんが座ってたところを見るとビールの空き缶が散乱してる。

この短時間でこれだけ飲んでたら、きっと吐くだろうな…その前に退散しよう。うん。


「あ、あの…愛さん…ですよね?」


「え、あ、はい。」


壁にもたれかかり一息ついたとき、酎ハイの缶を二つ持った新入隊士さんに声をかけられた。


「もうこっちにはお酒なさそうでしたので。
これ、どうぞ!」


そう言いながら、手に持っていたお酒を渡される。彼はもう一つを空けて、私の隣に座った。


みんながみんな女中さんに夢中(副長と隊長は見た感じ違うみたいだけど)の中で彼は私なんぞに気を使ってくれて…この人いい人だ!


「ありがとうございます!頂きますね!」


「どうぞ!
…そういえば、愛さんは向こうに混ざらないんですか?」


「あー…。
女の子とは仲良くしたいけど…あの中に混ざる勇気はないです。」


ふと中心を見渡すと2、3体の屍を発見した。あんな無法地帯に飛び込むと次はきっと私が潰される…って…おい、あれ近藤さんじゃね?


「そうなんですか。でも、よかったです!僕、愛さんと喋ってみたかったので。」


「え?私と?」


「はい!ずっと憧れていて…」


そこから、まさかの誉め殺し。今まで褒められた事があまりなかった分、照れるし恥ずかしいしで、お酒を煽りまくってしまった。そう、私の記憶はここまでである。



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宴会が始まってすぐに、あいつは俺の隣から一番遠くの壁へ移動しやがった。

その原因は、今の俺の隣にいるやつのせいだ。

…気に食わねェが、今は皆新人女中に夢中であいつが変に絡まれたりすることがねェ分、放置していた。


が、目を離した隙に、新人隊士があいつの隣に陣取ってやがる。



「…あそこは俺の場所でィ。」



「え?沖田さん?どうかしましたか?」



気安く俺の肩を掴んだ女中の手を振りほどき、あいつ…愛のところまで向かった。


「うふふふふーそんなことないですよー!全くー!飯田さん、うまいんだからー!」


「いや、愛さんは可愛いですよ!」


「何言ってんでィ。こいつが可愛いなら、近藤さんだって可愛いわ。」


二人の間に足を入れ、男の方を蹴り飛ばす。そして、空いた愛の隣に座り込んだ。


「あれー?たいちょー?飯田さんどこいったんですか??」


「おめー、ベロベロじゃねェか。
水飲め、水。」


見渡すが酒しかない。ため息をつき、膝をついた。


「食堂いくから、ホレ、やられたがってたオヒメサマダッコやってやらァ。」


「はじめてが、たいちょーなんてなんかヤですよー!」


「中庭に吊るされて、胃の中身全部吐き出すか、大人しく乗るか、今すぐ選べ。」


「うぅー、のればいいんでしょー!たいちょーの、あほたれ!!」



いつものガードの硬さなら、意地でも自分で歩こうとする愛が、今日は大人しく…キャンキャン喚きながらでも、俺に身を任せる。

うるさい口を塞いで、このまま部屋へ持ち帰りたい本心をかきけして、身体を持ち上げた。

(こいつに転がされてんのは癪だけどなァ。)


「え?!隊長と愛ちゃんて、もしかして…」

「嘘だー!俺、愛ちゃん、ちょっと気になってたのに!」


騒がしくなった外野…
特に、呆然としている女中と飯田を見ると、自然と口先が上がる。


世話焼いてやったんでィ。
少しぐらいはいいだろ。



外野に聞こえるよう大きめの、自分が出せる限界の優しい声で

「寝るのは、ヤることヤってからだろィ、愛…。」

そう言ったあと、ウトウトして聞いてねぇ愛の額に軽くキスを落とした。






君の知らない間に
(悪い虫がついたら、たまったもんじゃねェ。)



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