01「ありがとうございましたー!」
そう言って一息つく。
現在、19:00。閉店時間だ。
「みっちゃん、まこちゃん。
最後のお客様帰ったよ。」
「あら、じゃあそろそろ片付けましょうか。」
「その前にコーヒー入れるよ。休憩しよ。」
まこちゃんが笑って、カップを持ち上げる。
それを合図に、みっちゃんと二人でエプロンを外した。
ここは喫茶店『SEN』
三人で切り盛りしている小さなお店。
幼馴染みでもあり、私のお姉さん変わりの二人と、楽しく働かせてもらってる。
みっちゃんとカウンターに座ると、私達専用のお揃いのティーカップが差し出される。
中からはコーヒーのいい香り。
…あまりコーヒーが得意じゃない私でも、まこちゃんが入れたコーヒーなら飲めるんだよね、不思議だ。
「あ、今日前田のおじいちゃんが、もう、まこちゃんのコーヒーしか飲めないって言ってたよ。」
「本当に?それは嬉しいね。」
フワッと笑うまこちゃんは本当に美人だ。
みっちゃんもまこちゃんも自分が綺麗だって自覚ないけど、この二人目当てのお客様も多いのを私は知ってる。
…まこちゃんに関しては、宝塚みたいな雰囲気で紳士な所から、女性ファンも多いんだけど。
「あ、あと、今日来てた3番テーブルのお客様が料理美味しいって!今度、旦那さん連れてくるって言ってたよ。」
「まあ、嬉しいわ。
旦那様が来られたときは張り切るわね。」
クスッと笑うみっちゃんは本当、綺麗。
1Fで働く弟が同じ顔なのに、何故この笑い方が出来ないんだろう。
いや、今更爽やかに笑っても不気味なんだけどね。
「愛ちゃんが、お客様の声をこうして伝えてくれるのは有難いわ。」
「そうそう。モチベーションも上がるし。
これは愛にしか出来ない事だよ。」
そう言われて、少し照れてしまう。
ウェイトレスの仕事も楽しいし、二人が褒められてたら、私も嬉しい。
このお店が大好きだと、改めて実感する。
…うん!明日も頑張ろう!
「1Fはまだ働いてるみたいだね。」
カウンターにもたれ掛かり、カップを傾けるまこちゃんが下へ続く階段のある扉を見る。
終わったら、みんなここへ来てコーヒーを飲んでから片付けに入るのが1Fの日課。
だけど、たまに飛び入りのお客さんが長引いて、閉店時間を過ぎることもある。
きっと今日もそうなんだろう。
「あの人も大変ね。」
そう零すみっちゃんをまこちゃんと二人で見つめる。
きっとこの言葉にはいろいろ込められているだろう。
…それは、私たち三人だけの秘密。
この狭い店舗内、だれか一人を想う事は御法度。
きっと、さっきのみっちゃんは土方さんを思っての言葉なんだろうと思う。
(弟は、この時間の担当じゃないし。)
「あー、あの人もまだ見積り中かな。」
そういうまこちゃんは、ここのオーナーである近藤さんに片思い中。
伝えちゃいけない。
伝える事が出来ないこの想いをお互い言えるのが、この三人。
「総悟君はサボりかな。」
そう言って三人で笑う。
馬鹿だよね、私たち、と、まこちゃんが言うと、みっちゃんと二人で微笑んだ。
ずっとずっと好き(でも、このお店も愛してるの。)
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