砂漠の抜け方(4)


 恋人だった奴の顔だって三日で飽きたというのに全く柄ではない。
 顔を横から覗き込める分、後孔は見えないけれど挿入の時に存分見物すれば良い。
 滑る手で陰嚢を握り込むと派手な水音が立った。ローションで遊び過ぎたようで、股は酷く濡れていて、中指で会陰を押せばそこも滑った。
「……っ……」
 相変わらず声は出ない。会陰を押されて感じたらしいのは判って、陰嚢裏から後孔の窄みまでを丹念に擦り上げた。
 バランスを取れない爪先が力んで丸く縮こまっているのが何とも形容し難い興奮を呼ぶ。
「此処、気持ち良さそうだな。お前タチでも逆レイプされてたとか?」
 揶揄い半分に囁くと、やはり意地を見せて「違います」と即答された。
 けれど慣れた奴を抱いても会陰を擦るだけで勃起するのは居なかった。
 亀頭の割れ目にローションとは違う液体が滲み出していて、もう触れば脈動も判ると思う。
 やや赤みを増した愛らしい性器が裏筋を見せるまでに反り返り、ひくりひくりと揺れるのはとても卑猥で、もう此処だけを虐めていたくなる。
 けれど、掠める度に収縮しているのを感じる後孔も魅力的だ。緊張しているのが見なくても伝わる。
「一本、二本。どっちが良い?」
 中指の腹で後孔を叩くと喉が反り返り、辛そうに歪められた表情が視界に入った。
 下らない見栄を張らずにいれば良い物を息さえも噛み殺している。
「好きな方言えよ」
 人差し指と中指の爪先を後孔の縁に掛けてそこだけを開いた。収縮の反動がある度に彼自身にそれを伝えるべく、指を外し、また引っ掛けて縁を開く。
 ローションが伝い落ちて収縮の度に後孔までくちゃくちゃと咀嚼しているような下品な音を立て始めていた。
「……に、ほ……ん……っ」
 性器は血管が浮き上がり、このまま射精してしまいそうにも見える。
「にほん……ッ……して、くださ……っん……」
「一本な、了解」
 痛みで性感を紛らわせようとしているのは内股に食い込む指先で一目瞭然だった。そんな簡単に乗ってやるつもりは毛頭ない。
「……先生……っ……!」
 初めて抗議の声を聞いたけれど無視をしてゆっくりと中指を差し込んでいく。
 異物を押し出そうとする反発はあれどローションで濡れ切った指は少しの引っ掛かりもなく、その収縮に逆に飲み込まれるようにずぶずぶと埋まっていく。
 中は酷く熱く、狭い。中指だけでも食い千切って来そうな締め付けで、思わず笑みが零れた。
「本当にネコやってねぇみたいだな。流石におしゃぶりする時くらいは息吐けよ」
 引き攣って呼気を忘れている彼の耳孔に甘ったるい吐息を吹き込みながら腹側の内壁を伝い上げ、勃起しているせいで硬く張っている前立腺を捉え、ごりごりと押し上げる。
「……ぁ……っ……せん、せ……っ……」
 癖になるかの差はあれど、此処で性感を得ない男は居ない。
 亀頭を捏ねられるような直接的な快感とは違うが、性感の神経の束を刺激されるという意味ではそれ以上にどうにも出来ない悦楽だと聞いている。
 押し上げる指の動きに合わせて先走りが吹き上がり、彼のそこが充分にただの性感帯でないのは間違いなかった。
「指ならケツだけでもイけそうだな」
 口に出すと途端首を振って否定するけれど、腹に付く程に反り返った性器では言い訳も見苦しいだけだ。
「嘘付き。中指だけでイきやがったらちんぽぶち込む前にあと二回イって貰うぞ。人差し指と薬指の分」
 肩が震えている。肩に押し付けられた後頭部、恐らく必死に射精を堪えていて、けれど、それも時間の問題で。
 涙に潤んだ瞳が輝きを増している。


■■■■■



 結果等やる前から判っていた、というと嘘になる。
 中指の一本で意地を張った挙句に余程溜まっていたらしい濃厚な白濁を勢い良く撒き散らした性器は萎える事もなく、二本目は我慢もままならなくなったようで呆気なく射精し、三本目を入れる時には大腿裏を抱えていた腕がとうとう外れて嫌がるように俺の手首を押さえたが、挿入とほぼ同時に達してしまい、前立腺を擦りながら体内を開いていると白みの極めて薄くなった精液が吹き出した。
すっかり蕩けた顔を晒してしまっているのも自覚がないらしい。
 目の縁に溜まった涙が瞬きの度に一粒零れ落ち、唾液の嚥下はどうにかしているものの唇も濡れている。
 喉から浅い息が漏れ、時折「せんせい」と喘ぐのは反則だ。
 腕の中でこんな艶やかな姿を見せつけられて勃起しない筈もなく、早くこの熱く狭い肉筒に強張った塊を押し込んでしまいたいと思うけれど、指の三本が裕に飲み込めるまでと決めていた。
「……和民」
 自分の吐息が酷く熱い。俺が一方的に強姦に及んでいるような物なのに、外耳に唇を這わせ時折涙の筋を舐めて、馬鹿らしく思う程に甘い所作。
 挿し込んだ三本の指はすっかりふやけて、もう彼の体内を好き放題に掻き回している。
 そんな無体をしても彼は充分に性感を得るらしく、詰まり気味になりながらも短く吐息を逃し、俺が支える左脚の内股を痙攣させた。
 ぐちゃぐちゃと粘着質な音が小教室に響いていて、もし此処に誰かが来たらと背徳感を覚えずにはいられない。
 白いシャツには触れてもいない乳首の尖り切っている様がありありと浮いて見え、そこを虐めてみたいと思えど、彼の身体の何処もかしこも触れていたくて、持て余す情欲、眼前の耳朶に歯を立てる。
 肉襞は随分柔らかな物に変わっていて、締め付けは相変わらずではあるが、もうこの小さな孔を犯しても怪我をさせる事はないように思う。
「挿れて、良い?」
 断られようがその気しかない。言葉等煽り合う為のスパイスに過ぎなくて、ただ彼に返答を言わせる為だけに問い掛けた。
「此処まで開くから」
 三本の指を開き肉筒を拡張すると「せんせい」と責める甘く濡れた喘ぎ。
 右手がおずおずと俺の長い右側の髪を梳き掴んできた。
「……する、なら、早く……っ……は、ん……」
 もう酩酊寸前のような高く柔らかな呼び掛けに、もっと弄びたいと思いながらも耐え切れなくなって指を引き抜いた。
 彼の体重はいつの間にか馴染んでいて、先のように下手に勢い付く事もなく横抱きに支えて教卓に仰向けにさせる。
 性交で端から立位は辛いだろう等と二度目を考える自分を意識しながら、彼の左脚を肩に掛けさせて上体を前屈させて覆い被さった。
 彼の長い前髪をサイドへと梳いて流して性感に蕩けた顔を露わにし、涙の跡を唇で辿る。
 左腕が俺の股間に伸びてくるのを途中で止めさせたのは見せるより身体から感じて知って貰いたかったから。
 俺の形を身体の奥に刻み込みたい。彼を通り過ぎた人間の形跡全てを上書きして消してしまいたい。
 目許に口付けの雨を降らせながらデニムの前を寛げ下着を少し下げれば煽られ過ぎた性器が年甲斐もなく跳ね出てきて、自らの手で軽く扱き、先端を、まずは会陰へ押し当てる。
「ん、っ、く……っ……」
 数回突いて遊んでいると和民の指先が伸びて来て責めてでもいるかのように肩を掴まれた。
 掴むくらいなら抱き寄せてくれれば良いのに等と甘ったれた事を考えるのに僅かに自嘲が混ざり、大きく息を吐きながら後孔の縁へと切っ先をずらす。
 濡れた襞がやわやわと亀頭を食い摘んでくるのが堪らない。
 薄赤い唇が開き何かを訴えるように吐息が漏れた。
 ――求めて欲しい。
 漠然と願った欲望を現実にするのは流石に卑怯な気がして、目を伏せた。
 彼の呼吸と収縮に集中して慎重に挿入を始める。
「……く、ぅ……ぁ……っ……!」
 あれだけ慣らしたのにやはり未だに締め付けは強かった。肉は柔らかくなってはいるけれど、受け入れる器官でないからどうしたって狭い。
 しかしローションはすっかり体内の温度に馴染み、興奮した女性器よりも余程淫ら。




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