ヒトリノ夜(5)


「哀れんでねぇよ。ただの利害の一致だ。セフレになるもならねぇもお前の自由。俺は歓迎するって言ってる」
 歓迎、確かにそうなのだ。
 彼を抱きたい。
 昨日抱かずにいてその思いは余計に強まった。
 抱くのを望んではいけない人を抱きたいと望むのは二人目だった。
 一人目は父の恋人で元々叶う筈がなかったからただの夢、理想、恐らくは初恋で終わった。
 終わっていると思う。
 彼は違う。
 彼が頷けば手は届いてしまう。
 嘘だと、気の誤りだと、からかっただけだと、そんな風に躱してくれたらどんなに良かっただろう。
 彼は今度はたっぷりと時間を置いてから答えた。
「俺は、本気、だ」


■■■■■



 馬鹿なのだと思う。
 「なら決まりだな」と約束を交わした傍から酷く後ろめたい寂しさを覚えた。
 流れで友人になったのではなく、半ば事故で友人になった関係で、あの夕暮れのひと時がなければ俺達は交差点を持たなかっただろう。
 お互いを遠巻きにして終わった筈だった。
 そのくらい合う筈がないと思う人間だった。
 けれど友人として接するようになった途端、彼は幼馴染以上に近くて遠い存在になっていた。
 ただの友人ではなかったのだと、そんな思いが込み上げた。
 親友と思っていたのだろうか。
 意識した関係ではないが、バンド仲間は恐らく親友で、そうなると彼の存在は違う。
 ならば何なのだろう。
 気怠そうな彼を抱き締めたまま予鈴を聞き、本鈴を聞いても俺達は動かなかった。
 否、一瞬彼が身じろぎをしたのを俺が抱き締めて封じた。
 校内の喧騒は徐々に遠退き、グラウンドを使う生徒達の声が聞こえるのみ。
 後は互いの呼吸だけだった。
 それも徐々に間遠くなり、彼はいつの間にか眠りに落ちていた。
 微熱の身体に湿気た外気は良くないのだろうと思うけれど保健室に運ぶのも惜しくて、慎重に片袖ずつジャージの上着を脱いで彼の上体に掛ける。
 彼の熱はもしかしたら俺の思う以上に高いのかもしれない。
 その熱が索漠とした思いを募らせ、俺は彼の再び目を覚ますのを恐れながら抱き締め続けていた。



END




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