サウダージ(4)


 不意に彼が笑気を漏らした。
「……する、て、言ったら、責任、取ってくれる?」
 男とのセックスに何の責任を負うのか判らないが、それは俺が嫌う台詞の一つ。
 彼の事だから敢えてそれを発したのは判った。
「勿論」
 俺は無責任に応答する。
「鶴見」
 伏せられていた黒い瞳が開くが視線は交わらなかった。
「……抱いて」


■■■■■



 ベッドに寄り掛かる俺の股間に顔を埋め、尻に玩具を咥え、不器用に性器をしゃぶる姿は本当に新鮮だった。
 結局、既に男との性交の快感に堕ちていたという事。
 それ自体も実感すると酷い動揺を伴ったけれど、那須だと思わなければ身近に手軽で淫乱な穴が増えたというだけで悪くはない筈だった。
 口淫までは仕込まれていないようだったが指示をすれば思いの外従順に実行しようとする。
 亀頭を咥内に含み茎を扱いて、漏れる先走りは全て飲むように言った。
 視界に捉える事は叶わないが、彼の左手は忙しなく動き、恐らくは彼自身の性器を扱いている。
 けれど、彼の根本は革紐できつく戒めているからどんなに弄っても達する事は叶わない。
 後孔には最初にローターを二つ押し込み、殆ど慣らさずにローションで濡らしただけの細めのバイブを突き刺した。
 彼は「痛い」と喚き散らしたが、ローターのスイッチを入れた途端、逃げ込むかのように勝手に俺の性器を探り舐め始めたから、その行為自体は好きにさせている。
 散々俺を嘲り笑っていたのに、その俺の性器をしゃぶりながら自慰をする等想像も出来なかったが。
 口淫はお世辞にも上手いとは言えず、けれど、視覚からの刺激は強い。
「ん、は……」
 息苦しいのか短い喘ぎも漏れる。あの動画のように蕩けたそれではないが、地声に近い分、クラスメイト、友人なのだと改めて思い知らされた。
 腹圧の強さを示すように排泄されそうになるバイブを押し戻すと、背筋がしなやかに反り返る。ひゅ、と喉が鳴り、辛そうに歪められた顔は苦痛だけでないのは明らかだった。
「バイブもスイッチ入れてやろうか」
 笑いながら問い掛けると慌てたように首が横に振られる。
「……調子、乗んな……っ……」
「『抱いて』言ったのお前だろ」
 取った言質を振り翳して肉筒の幼けな縁を軸に内壁を抉るように大きくバイブで一掻き。
 更に奥にあるローターと当たり水音に混じり微かにかちかちと硬質な響きが聞こえる。
「ひ、あっ……痛い、痛い……!」
 腰がいやらしくくねり、また排泄されそうになったバイブを再度押し込むと彼は切なげに訴えた。
 これがセカンドバージンなら那須は相当な、今まで相手にした事のないような淫乱だ。バイブに触れていると体内の肉の蠢動が伝わってきて、本当に良く味わって咥えているのが判る。
 痛いのは恐らく塞き止められている性器の方で、けれどそんなに簡単に達してしまわれても詰まらない。
 サニーに散々絶頂させれた身体なのだから、俺は絶頂寸前の快感をひたすら与えていたかった。
「お前が、『ヤらせろ』、て」
「半分な」
 言質を返して来る彼にあっさり言い捨てると苛立ったのか大腿をぴしゃりと叩かれた。
「何? もう突っ込んだが良い?」
 意地悪く彼の望んでいないであろう事を囁やけばやはり首を横に振られる。
「取り敢えずもうしゃぶらなくて良いわ。詰まんねぇ」
 顎を掴んで上向かせると彼は目の縁に涙を溜めていた。唇から顎に掛けては唾液と先走りに濡れている。
 やはり淫乱だと改めて思うけれど、イメージでの処女臭さも感じて、妙に背徳的な気分になった。
 性器も十分に勃起しているし、挿入には問題ない。
 問題があるのは彼の小さな後孔の方かもしれないが、細いとは言え玩具で慣らしてもいる。良く良く濡らせば捩じ込める気がした。
 そんな乱暴な性交を望んだ事はなかったかもしれない。
 全て那須が悪いのだと心中言い訳をして、手脚をばたつかせる肢体を抱え込み、四つん這いの体勢を作り直させ尻を向けさせる。
 薄い尻は少し脚を開いて四つん這いになっているだけで後孔が見えてしまう。
 ローションで濡らしたバイブを咥えたそこは電灯の光を反射して、肉の蠢きに呼応して微細な襞を艶やかに見せていた。
 赤らんではいるが幼けな愛らしい色だ。
 本当に性器が入るのかと思う。事実、必死に異物を押し出そうと肉を絞り、バイブを上下左右に揺らしている収縮は初めて見る反応で、しかし却っていやらしい。
「……ヤんなら、さっさと……っ……」
 上体を支えるだけの力が入らないのか、彼はあっさりと崩れて俺の支えている腰だけが高く掲げられた。
 自分がどれだけ淫らな姿を曝しているか自覚がないのか、意識して煽っているのかは判らない。
 軽く内股を叩いて脚をもう少し開かせ、股を覗き込めば淡い色の陰嚢と根本を縛られ赤く腫れた性器の裏筋も見える。
 括っている革紐は彼の先走りで元の色を失い黒く変色していた。
 革紐の主人である筈の真鍮の縁に埋められた青い硝子のペンダントヘッドが性器を彩り、色の対比が何とも卑猥だった。
 もっとこの姿を眺めていたい等と考えていたら唐突の腹圧なのか、バイブがにゅるりと排泄されて来た。
「あ……ん、う……ひ、ああっ!」
 亀頭部を数秒引っ掛けて完全に抜け落ちる。
 一瞬捲れ垣間見えた内襞に無意識に生唾を飲み込んでいた。
 小さな穴からは残りのローターのコードが二本、細い尻尾のように生えている。
「や……っ……鶴見……」
 彼が嫌がらないようにえげつない色は避けた玩具、その安っぽい白いローターまでも排泄されそうになっているようだ。
 脱がしもしなかった黒いTシャツ、背筋が切なげに反り返り肩甲骨の陰影の黒が深く落ちる。
「鶴見……っ……つる、み……」
 窄まっていた濡れた後孔がじわじわと開き白いローターが見え始めた。
 ローターは二つとも微弱ではあるが振動している。
「……はっ……あぁ、あん……っ……!」
 彼の右手が性器に添えられがむしゃらに扱き始めるが。
「ひっ、ひぁああっ!」
 一つ目、ローターが転げ落ちるように排出されると当時に襲ったのは絶頂感と激痛だったのだろう。
 圧し殺す意志を失ったような派手な悲鳴が上がり、全身をがくがくと痙攣させる。
 ぽたぽた、と数滴の精液が滲み落ちたが大半は尿道を逆流したのだと思う。
「痛いッ……やだ、痛いのやだぁ……っ……!」
 隣室、那須の部屋のある東側は空き部屋、西側はクラスメイトで風紀委員の藤原英俊だ。
 奴にも那須の悲鳴は聴こえたに違いない。この声が那須の物だと判るかは定かではないが。
「何処が痛いんだ、教えろよ」
 質の悪い事を言っている自覚はあったけれど、初めての癖に行きずりの男相手に股を開いた彼なのだからこれくらいは何等問題ない筈だ。
 彼は小さく嗚咽を漏らしたが少しの憐憫も覚えなかった。寧ろそれにすら興奮する。
 顔を見ていなくて正解だった。慣れていないなら後背位が楽かと思っただけなのだが、顔が見えない方が好き勝手に想像出来る。
 好みの顔を――。 一瞬脳裏にちらついた相手を慌てて打ち消した。
 那須は好みとは違う。今の穴が那須なだけで、どんなに身体が好みでも顔は好みには成り得ない。
 大体好みだったら無理矢理にでもこちらを向かせているのだから。
「さっさと言えよ。もっと痛くなるかもしれねぇぞ」
 彼の唾液に濡れた性器を数回強めに扱き刺激を加える。
「……こ、此処、此処、痛い……っ……」
 切羽詰まった様子で涙声で訴えながら、白い指が彼自身の性器の裏筋をなぞる様は酷く滑稽で品性の欠片もなかった。
「ガキじゃねぇんだからちゃんと言えよ」
 後孔は痛んでいない、多少は痛くても口にするのを忘れる程度、そう自白しているのに唇が嘲りの笑みを浮かべてしまう。



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