サウダージ(1)


 ゲイ専門アングラ素人投稿サイトに『サニー』と名乗る投稿者が居る。
 サニーはそのサイトで絶大な人気で、俺、鶴見理人もその投稿を楽しみにしている低俗なファンの一人だ。
 サニーの投稿動画、画像は酷く卑猥で、添付されるコメントもえげつない。
 それが妄想を掻き立ててとても面白い。
 何処に仕掛けているのか、便所等の盗撮動画に始まり、過激な物は性交の嵌め撮りまである。
 サニー自体が被写体になるのは性器等、極一部に限られ、声も加工されているから特定はまず不可能。
 大半は女役――ネコのあられもない姿で、こちらの修正はあってないような物だ。
 拘束の挙句玩具を二本突き刺され悦がり狂っていたり、何度目かも判らないドライオーガズムの瞬間を捉えていたり、酷くいやらしい顔で失禁している物さえある。
 更にハードだと緊縛やピアッシング、スパンキングといったSM要素まで入っていた。
 サニーはそれらの被写体について「ドM、淫乱、便器」等の感想をコメントし、何処の発展場に居るか、ナンパ方法、役に立つ合法ドラッグまで添える。
 サニーのスレッドに晒された被写体は格好の獲物となるのが常で、サニーファンによる輪姦報告もあり、そうなるとその人物はもう堕落の一途だ。
 別の、やはりアングラなゲイ専門素人投稿サイトでオナニー実況動画を投稿するようになる者さえ出る。
 それもまた楽しみの一つ。
 セックスは好きだけれど、自慰が面倒だとか、そういう頭は俺にはなくて、気が向いた時にサニーの動画や画像を使っていた。
 今日も何となくパソコンを立ち上げ、サニーの投稿をチェックする。
 久々の新投稿は嵌め撮りのようで心が踊った。
 早速ページを開くと相変わらず無遠慮な前書きが綴ってある。
 『DK処女』『ゴミ淫乱ドM便器』『ナンパ』『使用合法ドラッグ』――目に止まったのはその辺りの単語、けれど処女というのは胡散臭い。
 男子高校生というのが気になってまずは『中出しどろどろアナル』と名付られた静止画を開いてみた。
 くっぱりと開き切った後孔の近距離撮影画像が出て来る。
 性交の後に撮ったのが一目で判る腫れた縁と襞。フラッシュを当てられた肉筒はしかし予想を裏切り、鮮やかな桃色をしていた。
 慣れているネコの体内は大概もっと赤みの濃いいやらしい色をしている物で、実際サニーの『処女』と謳うアナル画像はそういう色ばかりだった。
 俺は処女には手を出さない主義だが、こうして見ると愛らしい後孔の襞が白濁に塗れているのは酷く背徳的で、ずくりと股間が疼いた。
 『DK童貞とろとろおちんちん』と題された画像も開く。これも酷かった。
 殆ど触られずに達したのであろう事が判る。垣間見える尿道口だけが腫れていて白濁と先走りに塗れた萎えた性器、その尿道内まで犯したくなるような一枚。
 『健気な便器君顔晒し』と題された画像は飛ばして動画を見る事にした。
 股間が強張り始めていて手っ取り早く抜きたい。
 ジャージの下肢を少し下げて性器を取り出せば案の定硬くなっていた。
 出来れば顔はない方が俺好みの顔を想像出来て良いのだが、この『健気な便器君』とやらがサニー狂信者の変態に狙い撃ちされて本当の公衆便所になる未来は間違いなく、その面を拝んでおくのも悪くはなかった。
 動画は二種あり、『便器君の脱処女』と『便器君アクメ連発』のタイトル。少し悩んで後者からクリックする。
 始まった動画は正常位、上手く顔面をフレームアウトしていた。
 白肌に鬱血痕が残り、特に乳首が完全に紅く染まり尖り切っている。
 どれだけ乳首を吸われたのか考えるだけで股間の疼きが増した。
「や、ひぃっ……やら、イくの、イくの、やらぁ!」
 切羽詰まった嬌声と激しい水音が冒頭から収録されている。幼けな小さな後孔を無惨に犯す性器は赤黒く太い。
 引き抜かれる度に絡み付いているらしい襞が捲り返り、性器を存分に味わっているのが良く判った。
 使用は酒と合法ドラッグの弛緩系、媚薬系ミックスと注記されている。
 けれど媚薬系合法ドラッグで此処まで乱れるのはサニーの文言にある通り、アナルオナニーをしているせいなのだろう。
 体位が少しずつ変わり、女役の男の身体の腰が浮き上がった。
 これで挿入部と胸が見られる。
 カメラは少しずつ、勿体振るようにして引いていき、被写体の顔が映った。
 目許にモザイクはあるが修正はそれだけだ。
 黒髪、モザイクで隠された部位以外は比較的整っていて細身。
 これは好みの部類と言って良さそうだが、何処かで見た事のある気がして眉間に力が入った。
 見た事がある――どころではない。
 その人物はクラスメイトの中では一番顔を突き合わせている時間が長い奴かもしれなかった。
「……マジか」
 彼とは、つい先程、一時間と少し前に喫煙所代わりにしている部室で鉢合わせになって、お互い殆ど無言で一服して俺が先に部室を出た。
 彼は陰鬱だ。良く形容すれば上品な面構えかもしれないが、何処か高飛車で済ましていて、その癖いつも憂鬱そうで暗い。そちらの印象ばかりが色濃く残り、出会った当初顔面の造作は余り記憶に残らなかった。
 俺の記憶に残らなかったという事は、綺麗だとか可愛いだとかの部類ではないという事だ。
 去年も同じクラスで、とある事故のような一言から友人になってはいるが、果たして彼が俺を友人と思っているのかは判らない。
 友人付き合いを始めてからも彼の俺に対する悪口が止む事はなかったし、数ヶ月前、書いたばかりのスコアを突然に破られた時は流石に胸倉を掴み掛けた。
 しかし、どうにも彼は俺を怒ったり、嫌がったりするのが好きなようで、だから、そんな挑発には乗るまいと直ぐに頭は冷えた。
 彼の俺に対する敵対心的興味が消えてしまったら貴重な宣伝屋を失う事になる。それは大きな損失だ。
 彼の悪口は一般的には喜ばれない、無責任な噂の発端になるのだろうが、俺の場合は寧ろ逆だ。
 セクシャル・マイノリティと呼ばれる性趣向の一つだが、俺は同性愛者で、隠すつもりはない。
 この長身のせいかやたらに近隣の女子高との合コンの頭数に入れられたりして面倒だったところ。
 先輩や後輩の噂は聞いたのに同学年のその手の噂が殆ど耳に入らなくて、一人、取り敢えずは俺が同性愛者だと広まれば誰かもカミングアウトして俺にターンバックがあるやも判らないと思った。
 事実、彼の悪口のお陰で俺が男色趣味なのは知れ渡る事となり、同学年の昔馴染が付き合ったりして、それなりの効果が出て、それ以上に俺の知名度は上がった。
 曰く、『鶴見は懐が深い』と。
 そんな有難い噂なら卒業するまで振り撒いていて貰わなければ困る。
 出遅れた生徒会選も彼が影の宣伝屋として働いてくれたから得票率が想定以上に伸びたのだと思う。
 彼が躍起になって俺を叩けば叩く程、俺は何もしなくても利益が得られるシステムらしい。
 彼の悪口のせいで彼の渾名は『呪いの那須』だと聞くが俺からすれば『幸運の那須』だ。
 その彼、那須尊が。
「どうしてイくのが駄目なの?」
 サニーらしい男の声は機械質に加工されていてやはり声も特定はままならない。
 肉棒が容赦なく一突きすると那須は腰をくねらせて快感に如実に反応し、甲高い蕩けた甘えた声音で泣き喚く。
「ひ、あ……気持ち、イイ、の……っ……やら……も、やめ……っ……」
 呂律も回っていない。平生のぼんやりとした陰気な調子からは想像が付かない豹変だった。
 声の通りの良いせいでラブホテルらしい一室に派手な喘ぎ声が反響している。
「処女まんこの癖にイき捲る君が悪いんじゃないか?」
 サニーはあからさまに嘲笑っていた。角度深く腹側を突き上げると那須の骨張った薄い腰ががくがくと震え背筋が勢い良く反り返り、性器から先走りが吹き上がる。
 声にならない悲鳴を上げているらしい那須が絶頂を極めているのは間違いなく、唾液塗れの口許は知性の欠片も見当たらない。
 淫乱、その一言に尽きた。
「すげ、タカシ君の処女まんこうねり過ぎ」



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