「安居」
尻を割られ、指先が後孔を左右に押し広げてくる。
「欲しいって言えよ」
「……言ったら」
涼の唇も唾液に濡れていて赤みを増していた。
相変わらず、小憎らしい迄に瞳は冷静で、彫像のように整った秀麗な顔。
緩く波打つ髪を握り直す。
「言ったら、どうするんだよ」
俺ばかり息がみっとも無く弾んでいた。声も掠れて上擦っていて、涼と触れ合っている時にしか出ない物。
自分から腰を落として屹立の先端に開いた後孔を押し当てる。
欲しくて堪らない。昨日も一昨日も嫌という程擦られて着実にダメージは積み重なっているのに、本当に馬鹿だと思う。
こうして受け入れたら、涼はまた俺を抱き締めてくれてくれる。その時だけは、涼は俺の物だ。
身体の、性的な欲だけではない。
独占欲、そんな何の実にもならない欲求。
肉の輪はその切っ先を捕えて甘噛みするかのような口付けをしようとしているが、開く指に邪魔をされて咥える事が出来ない。飢えた体内が熱い。
「……どうもしない」
涼は暫くの沈黙の後にぽつりと答えた。
「どうも出来ない」
俺を見詰めていた瞳が僅かに揺らいだ気がした。その感情が何だったのか判らないまま瞳は閉ざされる。
「涼」
答えが俺の何かを安堵させた訳では無かった。却って、胸が軋んで苦しかった。
何も変わらない保証なんて何処にも無い。今、この瞬間が全てだった。
俺は両の腕で目の前の彼に必死にしがみつく。
首筋に顔を埋めて今の精一杯を口にした。
「……抱いてよ」


■ ■ ■ ■ ■


気付いたら俺は涼の腕の中に居た。
規則的で安らかな寝息が頭の上から聞こえていて、服もきちんと着せられていた。
また気を失ったかと小さく溜息が漏れてしまう。
身体はいつものように清められていて、涼が達したのか、満足出来たのかさえ判らない。
もう少ししっかりしていられたら良いのに、殊、性行為では全く自分を冷静に保てない。
「……涼」
体温を求めて胸に頭を擦り寄せ背中に回している腕に力を篭めた。
何時まで二人の旅が続くかは判らない。
途中で一人が命を落とす可能性だって幾らでもある。
未来の確約なんて誰にも出来なかった。
だからかもしれないが、心を突き動かした衝動、不思議とそれに後悔は無かった。
夜明けが来て、涼の態度が変わっていたら俺は間違いなく傷付くだろうし、その不安が消えた訳でも無い。
ただ、言葉にして伝えた事、それ自体の後悔は無いのだと思う。
もし次があっても、また同じ言葉を言えるかは判らなかったけれど。
「涼」
擦り寄っても返る言葉は無い。
夢の中に居る涼に現実的な意志は存在しない。
――だから今だけは、涼は俺の物。
どうしてこんなに欲しいのかは判らない。
取り敢えずは判らないままでも良かった。
今の涼は俺の物だったから。



END



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