指先が再び後孔を押して来て、内股がみっともなく震えてしまった。
冷たく粗い生地が後孔の縁に数瞬、咥えられる。タオルを引いた涼には後孔が食みたがっているのが判ってしまったかもしれない。
「……あ…ッ…」
先よりも強く圧迫されて指先の形に完全にタオルが埋め込まれた。
「此処、綺麗にしないと」
そんな事を言いながら涼の右手は胸を這って、外気に曝され少し尖っていた乳首を掌で潰してくる。
「涼…っ…!」
「痛い?」
非難するつもりで呼んだのに、まるで機嫌を取ろうとしているかのように優しく聞かれて、どう答えれば良いのか判らなくなった。
身体の内側迄拭う必要は何処にも無いけれど、かと言って溜まっているとも思えない。善意だけとも思えない。
拒否をしたら自意識過剰と思われるかもしれないし、受け入れて粗相をしてしまったら最低だと思われるかもしれない。
「……痛、い……」
正答が判らなくて、俺は嘘を吐いた。本当は殆ど痛みは無い。広げられる圧迫感はあるが、肉を裂かれるような、肉を引き剥がされるような、そういう痛みは無かった。
「そ、か」
涼は気の無い相槌をして、荷物を手繰り寄せた。外ポケット、そこに入っている小瓶を俺は知っている。
「良い、良いから。本当、もう」
後孔をまたまさぐられるのは嫌だった。それ自体が嫌、というよりは、それで達してしまうのに抵抗がある。達してしまうと容易に想像出来る自分を嫌悪している。
「遠慮するな」
涼は適当極まりない応えをして小瓶の蓋を外しタオルに染み込ませ始めた。じわじわと新たな湿り気が伝わり、タオル自体が滑るようになる。元の水分で薄められてはいるが、その程度の滑りで十分だった。
「ひ、ぁあ……ッ…」
ほんの少しだけ潜り込んでいたタオルを更に体内へ押し入れようと指が後孔を突いてくる。
体温のある指が直接触れていないだけで随分感触が違った。粗い生地の繊維が肉襞をざりざりと擦ってくるのが不快で、それなのに何故か性的な快感を覚えてしまう。
また器用にタオルだけを体内に残し、指が抜けていく。
「ん……ッ…く…」
生地は折り重なった分だけ暈はあるけれど、指と違って内壁の蠢きで自在に形を変える為、本当に後孔が咀嚼しているような錯覚を覚えた。
異物を排泄しようとする蠕動は指の挿入で妨害され、滑るタオルの塊がどんどん奥へと埋まっていく。
「は、ぁあ…」
こよりのようによれ、一塊にされていくせいで、タオルは埋め込まれる度に太さを増して入口を広げた。布の塊の先端は指では届かない場所まで入り込んで来ている。
肉筒の収縮に合わせ、たっぷりと含まれた薬液が搾り出され、肉襞の細かな凹凸に至る迄を濡らし染み込んでいった。
「……涼…っ…」
気付いた時には性器が恥知らずにも頭を擡げていた。連日あれだけ射精しているのに、未だ放出を願うだなんて破廉恥も良い所だ。
不自由な右手でも隠すくらいは出来る。股に手を伸ばすと、それを叱り付けるかのように耳朶を強く噛まれた。
「……隠すな、安居」
命令される謂れは無いのに腕は引けてしまう。
乳首を柔く捏ね回されながら後孔に異物を押し込まれて、屈辱以外の何物でもない筈なのに、そういう感情は殆ど湧かなかった。
ただ恥ずかしくて情けなくて、どうしたら良いのか判らなくて、酷く悲しい。恨めしい。
「……ん、ん…ぁ…涼…」
上がり始める上擦る声を喉奥に必死に押し詰めて喉を反らす。後頭部が彼の肩に当たって、堪らずにそのまま頭を擦り寄せにいくと額に軽く口付けが落ちた。
「……気持ち、イイ?」
そんな事は一々確かめずとも勃起で判る筈なのに、涼は平然と意地悪を言う。
――そんなに貶めたいのか。
せめて性器に触れてくれていれば素直に快感を伝えられたかもしれない。
こんな異常な行為だけで感じているなんて認められる訳も無かった。
後ろ手に掴んだ肩に爪を立ててやる。意地で答えてやるものかと思う。
「安居」
間近にある唇から吐き出される息は微かながらも確かな熱を孕んでいた。
「答えろよ」
尻に当たる性器が少しずつ硬度と質量を増していて、本来ならば疎んで当然なのに、俺は確かに安堵してしまった。
本当の気持ちは判らないが、少なくとも涼の身体は未だ俺を嫌悪し切ってはいない。性的なはけ口に使っても良いと反応している。
そんな事で目尻に涙が滲んでしまった。涼に触れられていると何故か涙腺が緩んでしまう。
「また泣いてる」
涼の声のトーンが落ちた。冷めたようにも響いて、俺は掴んだ肩に必死に爪を立てて依り所にする。
唐突にタオルが引き抜かれたが、直腸に吸収された薬液のせいで後孔が締まり切る事は無かった。未練がましくひくついて、くち、くち、と小さく音を立てて鳴く。
「……涼……」
抱いて欲しい、そう思う。
快感の為ではなくて、ただ抱き締めて欲しい。眠る時にそうしてくれるように離さないで欲しい。
口にして良いのか判らなかった。
そんな甘えて良い関係ではない。涼の世話焼きは気紛れの一種で、冷めてしまえばきっともう抱いて眠る事は無くなるような気がした。
――ああ、これはただの気紛れか。
ぼんやりしていた思考が少し晴れた気がしたが、気持ちは却って曇る。
俺は涼に何を望んでいたのだろう。希薄な関係だと知っていて、厚意の中に何か特別な感情があるのではないかと心の何処かで期待していたのかもしれない。
俺にとり、涼は間違い無く特別だった。何時からなんて判らないけれど、今は唯一人の特別。
きっと二人きりだからとか、そういう状況が無くても特別だったのだと思う。
触られても嫌じゃない。もっと触れて欲しい。
――触れたい。
涼の腕が俺の身体を反転するよう促して、俺は逆らわずに向かい合う形で涼を跨いだ。
視線が交差する。
濃く長い睫毛に縁取られた涼の燃えるような鮮やかな色の瞳は、その色味とは真逆に酷く冷たく見えた。
感情が殆ど窺え無いせいもあるのだと思う。実際俺を蔑視しているせいもあるのだと思う。
悲しいけれど、この酷薄な瞳さえ、俺は求めて止まなかった。
両腕を肩に添え置いたら新たな涙が零れた。
「……涼」
小さく呼び掛けて怖ず怖ずと顔を近付ける。
触れたら拒絶されるだろうか。
拒絶されたら今以上に心がひしゃげてしまうに気まっている。
――でも。
上向いている淡い朱の唇に唇を重ねた。ほんの少し、触れるだけ、掠める程度。
直ぐに顎を引いて止めていた息を吐き出す。
「安居」
呼ばれると同時に強引に頭を引き寄せられた。
再度唇が重なって歯がかちりとぶつかったが、そんな事はまるで気にも留めていない様子で、舌が歯列を割って口内に潜り込んで来る。
「……ん、ぅ」
歯の裏側を辿られ口蓋の凹凸を象られると背筋が震えた。
俺ももっと深く重ねたくて舌を差し伸ばす。舌の根が痛む程にして涼の熱い舌の裏側を舐め上げ、舌を絡め合った。
息が出来なくて頭の芯が痺れたけれど、ただ本能の、心の求めるままに必死に互いの舌を擦り合って、涼の柔らかな髪をまさぐり掴んだ。
短い後ろ髪を引かれて、始まりと同じように唐突に唇は引き剥がされる。未練がましく開いたままの唇からは唾液が零れていたけれど、不足していた酸素を肺に取り込むのが先だった。



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