「しかし本当に山菜が見付からないな」
「だろう?」
拾った大枝で周辺の下草も薙いではみるが、口にした事のある植物が中々見付けられない。一応あるにはあるが、群生しているポイントが殆ど無いのだ。
「この辺り迄が草食動物の縄張り範囲なのだろうな」
「だから恐竜も多いと」
「そういう事」
「……他の葉っぱ、トライしてみるか?」
「それは最終手段だな」
涼が苦笑して手にした木枝を揺らした。
「北側は未だ殆ど探索出来ていない。後は件の西南、望みが完全に無い訳じゃない」
「葉っぱ問題がどうにかなれば風呂作っても良いのにな」
「同感」
こうして考えてみると施設で口にしていたキャベツやキュウリ、トマト、モヤシ等の有り難みが良く判る。
キャベツは一玉あれば二人で三日は食べられる。モヤシは栽培が手軽で収穫も早い。
二人で生態系と果樹のポイントマップを新たに書き加えながら南側の通路へと獣道を繋ぎ、東南の川で水を汲み洞に帰る頃には夕日が赤く染まっていた。
少し遅れてしまった夕飯の支度を二人で分担して、今日の反省会をしながら食事を摂った。
仕事があれば涼とも普通に、平穏な会話が成立する。下敷きにしたい藁系も程良く乾燥していたから洞内に継ぎ足しをしてまた少し快適な空間になった。
後は身体を拭いて寝るだけ。そうしたらまた朝が来て、涼との仕事が始まる。
「毎日水浴び出来たら良いんだが」
「風呂な、風呂」
一日の疲労が温かい湯を求めて止まない。贅沢な希望だが、疲労が蓄積してしまうのはやはり得策ではなかった。
固く搾って貰ったタオルを手渡されTシャツを脱いだ瞬間、涼の視線を感じた気がして、何と無く背中を向けるように座り直した。
――自意識過剰だ。
連日身体を重ねているし、状況からしても欲求が溜まっている事は考えられなかった。
涼が俺の身体を性的興奮の材料にする訳ではないし、見られた所で何も起こりはしない。恥ずかしいと感じる必要も全くない。
向けられた視線も自然な物、何かを意図して俺を見たのでない事は間違いなく、自分が意識してしまっている事が異常だった。
極力自身を落ち着かせるべく呼吸をゆっくりと繰り返しながら右腕の包帯を解く。
改めて利き手の不自由を実感するが、嘆いたら治りが早くなる物ではない。
最悪、治らないかもしれないのだ。左手一本での作業にもいい加減慣れていかなければならなかった。
首筋、右腕、胸、腹と順々に拭いていくがどうしたってまだまだぶきったい。何度かタオルを取り落としてしまって、自分の小さな失態の連続に苛立った。
ヒビが入っているのであろう右の人差し指と中指は勿論だが、今は他の三指迄も痺れて痛みが伴い、思うように動かせない。
背中は左手で届く範囲、不十分な所は明日清流の力を借りて洗うより他は無かった。
汚れたジャージのズボンも脱ぎ捨て洗濯物を溜めている片隅に放り投げ、足先から改めて拭き出す。
俺がもたもたとしている内に涼は終わってしまったらしい。立ち上がる気配がした。律義にタオルを洗っているようで、その順調な洗浄音、搾る水音が羨ましく、つい嘆息が漏れる。
「ひゃ」
不意打ちに背中に冷たい感触が落ちて珍妙な声を発してしまった。背筋がびくりと跳ねて伸びる。
「拭く」
涼が短く意図を告げて、肩越しに振り返ると褐色に焼けた裸の上体が視界に飛び込んで、反射的に俯いてしまった。
「……悪い」
意識するのは可笑しい。
厚意には素直に甘えておくべきで、自分で脚を拭きながら背中は頼む事にした。
タオルが丹念に背中を拭いていく。辿られた部位から水分が揮発して心地の良い寒気がした。
脚を折り曲げてふくらはぎを拭いていると涼のタオルが俺の大腿に回ってくる。
「……後は自分で出来る」
下手な緊張が伝わってしまうのが怖くて遠回しに断ってみたが、涼の手は気にも留めていない様子で俺の大腿を拭き続けた。
落とした視線、視界の端に涼の膝がある。まだジャージを穿いていないらしい素足。
またそこで、一つ心拍が跳ねてしまった。
見慣れている肌にさえ、こんなに意識してしまうなんて本当にどうかしている。
タオルが内股に滑り落ちて撫で上げて来るのに堪らず背中を丸めてしまうが、その手には当然性的な意図は無く、拭き終われば直ぐに右の大腿に移った。
俺の左手は完全に止まり、本来自分がすべき仕事を放棄してしまっていたが、それを叱責される事は無かった。
涼は黙々と俺の脚を拭いている。
ボクサーの下着、ぎりぎりの縁迄タオルが辿り終え、俺も漸く安堵して息を吐き出した。
今度こそ寝るだけだ。決めた通りの合理的な背中合わせで。
そう思っていた所、また不意打ちに下着の穿き口が下げられた。性器と陰嚢が外気に曝され、派手に肩を揺らしてしまう。
「拭く」
涼の言葉は相変わらず端的だった。そんな所迄手を借りる必要は全く無いのだが、手を振り払えば変に意識している事が本当に伝わってしまいそうで身動きが取れない。
冷たいタオルが性器に纏わり付いて根本から先端迄をゆっくりと辿り上げる。温度に反応して陰嚢が竦むが手の動きは流れのままに止まらず、先端の割れ目迄も丹念に拭いて来た。
「腰、上げろ」
行為は身体を清めているだけ、丁寧だが淡々としていて性的な愛撫とは明確に異なる。
命じられるままに左手を付いて腰を少し浮かせると下着が完全に引き下ろされ、尻も剥き出しになった。
右腕に腰を引き寄せられて涼の膝上に座らされる。尻に当たる感触で涼も全裸なのだと判ってしまった。
服位着てくれてからでも良かったのに、何を考えてこんなに甲斐甲斐しく世話を焼くのか想像も出来ない。
右手に誘導されて膝を折り、股を開く。羞恥に耳が熱くなるが、此処迄して貰って拒否するのも今更で、何故俺自身こんな風に甘えているのか良く考えもしないまま涼の胸に背中を預けた。
冷たさに竦んでいる陰嚢をタオルでやんわりと揉み込まれ、素手と違うその感触に肌が粟立つ。
唇を噛んで乱れそうになる息は辛うじて押し殺したが、意識はどうしたって下肢に集中してしまう。
会陰迄丁寧に拭われ、タオルが後孔に差し掛かった。
涼の性器を二晩続けて咥えたそこは未だ熱が取れないでいる。見て確かめた訳ではないが、多分腫れているのだと思う。
涼の性器は俺と比べると裕に二回りは大きい。太さも長さも一見して違いが判る程だ。
俺が格別小さな訳ではないから、涼が規格外に大きいのだと思う。
尻に当たる涼の性器を改めて意識した途端、後孔が勝手に窄んでしまった。そこに追い討ちを掛けるかのように濡れたタオルが押し当てられる。
粗い生地越し、涼の指が軽く押してきて、意図しない収縮がタオルを食んでしまう。
「……涼」
ただ清められているだけでも、身体が興奮して来ているのを自覚してしまった。これ以上、触れられていたらまたみっともない醜態を曝す事になる。何より厚意に申し訳ない。
肩越し、左手を差し伸ばして涼の肩を掴む。振り返って顔を確かめるのは怖かった。
「もう……」
内股を擦り合わせるように閉じるが、涼の腕は股の間に挟まったまま。
「まだ終わってない」
涼の吐息が耳元に掛かり、低い囁き声が耳孔に響く。



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