何時から涼はこんなに俺に触れるようになったのだろう。
最終試験、選抜が決まったその日迄は精々掴み合い、殴り合い程度の、スキンシップとも呼べないような関わりしか無かった筈だ。
選抜が決まり一室に回収されても、俺達は一言も言葉を交わさなかったから、その関係のまま眠りに付いたように思う。
記憶が曖昧な訳ではないのだが、曖昧と誤認してしまう位には、昔から触り合っていたような気がしてしまう。
未来で目覚めて、気が付いたら肩を抱き寄せられたり、俺から寄り掛かったりするようになっていた。
何時の間にやら茂や小瑠璃、少なくとも源五郎と同程度には、肌が触れ合っても拒否反応は出なかった。
寧ろそれはとても自然で、違和感等少しも覚えなかったし、今の今迄意識さえしなかった。
二人旅を始めて漸く、涼が俺に世話を焼いている事に気付いた。何と無く気になったままに問い掛けてはみたが、明確な回答は貰えず話の矛先を逸らされてしまい、結局うやむやだ。
今に至ってはセックス迄してしまっている。
お互いの間に恋愛感情がある、という訳では無い。セックスはあくまでも抜き合い、自慰の延長線上にある行為なのだと思う。
涼は普通に虹子と付き合ってもいたし、口では利害の一致だとか澄ました事を言っていても、彼は誰かに合わせるような協調性は必要最低限しか持っていないから、虹子に少なくない好意を持っていたのは間違いなかった。
元々ゲイが選抜される事自体有り得ないが、その前提に目を瞑ったとしても、涼が虹子と恋愛関係を長く続けていた事実が彼のゲイで無い事を証明している。
つまり、男が恋愛対象である可能性は勿論、性的関心の対象である可能性もゼロ。
俺とのセックスは、俺が茂と何と無く抜き合いをしてしまったのと同じような物なのだろう。
雰囲気、流れ、そんな曖昧な物に身を任せていたら結果的に身体を重ねてしまった、要は事故の部類。
幸運な事に、と言って良いかは迷うが、ともかくもその事故が涼にとりそこ迄悪い物ではなかった上、性的な解消法として利点があったから繰り返すようになった。
セックス自体はそういう事で、取り立てて不自然だとは思わない。
けれど、どうにも拭えない違和感がある。
俺が茂と性器の触り合いが出来たのは、あくまでも茂という気心知れた親友だったからだ。
もし、そういう雰囲気になったとして、源五郎と出来るかと問われれば答えはノー。
源五郎に触られるくらいなら便所に駆け込みたいし、正直源五郎のそれを触っても良いと思えない。
初めて涼と重ねた夜の事がはっきりと記憶に残っている訳ではないのだが、仕掛けて来たのが涼だったのは間違いない。
俺は熱が上がって少しぼんやりしていて、その間隙を縫うように涼が押さえ付け、言葉巧みにそういう方向に誘導されたように思う。
俺が拒否しなかったのは、セックスを体験出来ると思ったからで、最初から抱かれる側だと判っていたら当然全力で抵抗した。
とは言え――俺も涼なら抱いても良いと思った、という事。
抱きたいと強く望んだ訳ではないが、少なくとも肌が触れ合う事に嫌悪感は無かった。
俺と涼の関係は、俺と茂の関係とは全く違う。俺と源五郎の関係より遥かに希薄だし、寧ろ険悪だった筈だ。
どう考えたって可笑しい。
想定外な二人きりの旅に二人して感覚が狂っているのだろうか。
――否、涼が俺の世話を焼き始めたのは、その前から。
俺もそれを無意識の内に受け入れていて、一体何時から世話を焼かれているのかすら判らない有様。
――俺達は何時から、どうして、触れ合っているんだろう。
夜明けには未だ少し早い。南西に空けた洞の小窓に漸く満月が差し掛かったところ。
後一時間もすれば空も白み始めるだろうが、それ迄は涼も目覚めはしない。
涼の左腕は俺の背中に回っていて、男にしておくには勿体ないくらいの長い睫毛が俺の頭の上にある。
涼の腕の中は温かい。現実的には微熱続きの俺の体温の方が高い筈なのに、涼の体温はとても心地が良かった。
俺の不自由な右腕も涼の腰に回っている。
鎖骨に鼻頭を擦り寄せてみれば、肩に落ちている柔らかな髪が俺の頬を擽ってくるが、それにも酷く安心する自分がいた。
この腕を、体温を、失う事が怖かった。
俺が擬似セックスで、性感帯に成り得ない場所で感じてしまって、軽蔑されたと思った。
もう抱き締めて貰えないと思って、今度こそ見限られたと思って、本当に、本当に怖かった。
忘れた振りを貫いて無かった事にするしか出来なくて、そうしたら涼も俺の三文芝居に付き合ってくれて、無かった風に、いつもと変わらぬ風に接してくれて、心の底から安堵した。
もう身体を重ねる事は無いだろうと考えていたのに、その日の夜に涼が誘った。
正直どうしたら良いのか判らなかった。
断れば見捨てられるかもしれないと思ったし、抱かれたらまた醜態を曝してしまっても見捨てられるかもしれないと思った。
迷った末に、涼の望むままにしてみようと判断した。
女のように胸を弄られるのは醜態を曝す一つのファクターになる事は数回で学んでいたから、必要最低限な部位への関心に誘導しようと考えて自ら下肢の衣類を脱いでみたら、案の定、胸には触れて来なかった。
要は涼も穴を使えれば良いのだと判って、それに何故か少し心が痛んだけれど、当たり前の話だと頭では十分理解出来た。
性器にも殆ど触れて貰えず、荒っぽく後孔を割られても、セックス時において、俺はただの穴だから仕方が無いと思った。
切なくて苦しくて、それなのに身体だけは節操無く興奮した。
涼に後孔を開かれるだけで感じてしまう事実を再確認して、どうしてこんな男として致命的欠陥のある身体なのだろうと酷く惨めになった。
そんな身体でも涼の性欲の解消に使えるなら、俺のくだらない葛藤なんて仕舞い込んで隠してしまえば良いと必死に自分に言い聞かせた。
長引かせたらまた新たな醜態を曝してしまうかもしれなかったから、早く涼の欲求を満足させたくて精一杯俺からも誘った。
それなのに涼は俺を抱こうとしなかった。
それで漸く、涼は俺を嘲りたいだけなのだと気付いた。俺が、男に抱かれて悦ぶような男として最底辺な身体なのだと、涼はやはり判っていたのだ。
だから、俺の身体の欲を口に出させようとした。
きっと本当は抱くつもりなんか無かったのだと思う。抱きたくなんか無かったのだと思う。
ただ、軽蔑して笑いたかったのだ。
悔しくて悲しくて辛くて、涙が止まらなかった。
酷いと思った。どうしてこんなに俺を惨めにさせるのかと恨めしかった。
馬鹿な俺はそれで漸く拒絶するのが本当に涼が期待していた正答だったと判ったから、必死に、本当に必死に抵抗した。
そうしたら無理矢理押さえ付けられて、結局殆どレイプのように犯された。
涼の考えている事が判らなかった。
俺が女のような扱いをされて悦べば良いのだろうか。
そうしたら涼は本当に俺を軽蔑するに決まっているのに。
「……どうして抱いてくれてるんだよ」
失神して目覚めてみたら、俺は涼に抱き締めてられていた。
「……どうして……」
涼の腕は温かい。優しくて、無条件で俺を受け入れてくれているかのように錯覚してしまう。



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