俺の射精に至る迄安居の意識があったのかは判らない。
引き抜いて内股に白濁を撒き散らし、荒ぐ息を落ち着かせるよう大きく息を吸い込んだ時には安居は失神していた。
身体を守ろうとするかのように胸の前で畳まれていた両腕が痛々しかった。
「……安居…」
俺は何度この名を呼んだのだろう。
「安居」
安居は死んでしまったかのように動かない。
そっと脚を下ろし、慎重に身体を仰向けに転がす。体温は高い。
口許に唇を寄せると静かながら息が吹き掛かり、それで漸く安堵した。
乾燥した赤い唇。舌先で舐め辿り湿らせてみる。
それが何の足しにもならない無意味な行為だと判っていても、安居が干からびていくのは耐えられなかった。
「……お前は今日も無かった事にするのか」
今朝を思い出すと何故か胸が締め付けられるように痛んだ。
――こんなに。
こんなに傷付けているのに、安居の記憶からは俺だけが抜け落ちる。
砂が手から零れ落ちるように。
大きな物だけが、安居の両の手に残る。
「安居」
抱いて眠る事くらいは許されるだろうか。
答えをくれる者は居ない。
ちっぽけな俺を覚えていてくれる人は、きっと、未来を導く役を背負う安居しか居ない筈なのに。



END



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