「余りに煩いから尻にも塗ったぞ」
涼は冷めた目で俺を見下ろしている。
「……ッ…お前…」
「お陰でユルユル」
三本の指が浅い部分の肉を大きく割った。
「…ひ…や……っ…」
熱が篭る体内に冴えた外気が入り込んで、腰が震えてしまう。認めたくないけれど、それは間違えようもない快感だった。
身体の内側を開かれる事に快感を覚えるなんておかしい。そこ自体は性感帯ではない筈なのに、排泄感に似た悪寒を快感と捉えてしまっている。
後孔には確かに何かの液体が塗り込まれているようで、緩んだ中を掻き回されるとぐちゃぐちゃと酷い音が洞内に反響した。その度に露出している性器が先走りを滴らせる。
「や、駄目…っ…そ、な…ッ…」
体内の肉はあさましく震える事しか出来ない。指に絡み付いても捕える力はなく、肉の摩擦感を強めるばかりだった。
「要さんに抱かれる夢でも見てたんだろ?」
「あ、あぁあッ!」
指が再びずっぷりと根本迄入り込んで、訳の判らないまま全身が痙攣し射精しそうになったが、精液は漏れる程度、僅かしか出ず、尿道内を逆流し激痛に見舞われる。
張り詰めて膨らんだ性器、雁首が幾重にも紐で括られていた。
「……涼…ッ…」
実際自分がどんな顔をしているかなんて判らないが、絶頂瞬間の歪んだ、醜い、だらし無い顔を曝していたのかもしれなかった。涼が嗤っている。
「尻借りるぞ。目閉じて要さんだと思っておけよ」
宣告と共に呆気ない程簡単に指が引き抜かれた。
「…ふ、く…ぅ…何で、そういう……」
引っ掛かりを覚えた台詞は視界に飛び込んだそれで頭から抜け落ちる。
ジャージと下着を引き下ろし、露出した涼の性器は俺のそれより遥かに大きかった。水浴びを共にする際、無駄に立派だとは思っていたが、勃起した状態はもういっそ凶器的。
一度だけセックスはしたし、やはり一度だけ触れた事もあったけれど、目でそれを確認するのは初めてだった。
「……何だよ」
固まった俺を見下ろして涼は小さく嘆息を吐き、長く伸びた髪を欝陶しそうに背中へと靡かせ、左手でこれみよがしに性器を擦ってみせた。
「無理、無理だ……っ…入らない…!」
口を突いた台詞は自分でも悲しくなる程に間が抜けていたけれど、あれが尻に入る事を考えて怖じ気付かない男が居ない筈はない。
女である虹子でさえ涼を殴ったらしい――それも今なら理由が判る。
セックスは女の方が大層辛いらしいとか、涼は寝ぼけた事を言っていたが絶対に違う。生命の基本である生殖行為、一方だけがそこ迄辛い筈は無い。原因は間違い無く個体、つまり涼の大きさにある。
「十分慣らしたから大丈夫だ」
涼はやはり自覚していないようだった。他人事のように頷いて性器を尻に近付けて来る。
殴ってでも逃げるべきなのに身体に力が入らなかった。殴れた所でこんなに勃起していたらまともな動き等出来る由も無い。
「涼、嫌だ、無理、本当」
拒絶の言葉も途切れ途切れにしか出て来なかった。首を振って訴えても涼の冷めた眼差しは変わらない。何処か怒っているようにも見えたが、涼は子供の頃から感情を露わにする事は殆ど無かったし、俺の恐怖感が涼をそう見せているのかもしれなかった。
性器の切っ先が後孔の縁に押し当てられる。みっともなく身体が震えた。挿入箇所が視界に入らないだけまだ良いのかもしれないが、怖くて怖くて堪らない。
「お前のそういう顔、悪くないな」
涼は口角を上げ、先端をゆっくりと縁にめり込ませた。
「やだ、涼、やめ…ッ…!」
くち、と小さな音を立てて潜り掛けていた性器が引かれる。説得に応じたのかと安堵した途端、また先がめり込む。
「ふぁ…ぁ…ッ…」
挿入するなら一思いに串刺しにすれば良いものを、涼は宛がっては切っ先を逸らすのを繰り返した。
俺の恐怖を煽って遊んでいるのは一目瞭然。
刺激を受ける後孔の縁が意志とは裏腹にひくひくと蠢いて、舌舐めずりでもしているかのような卑猥な音を響かせた。
「…涼…っ…」
「何だよ」
腹の中が熱い。先迄散々引っ掻き回されていたから当然なのかもしれないけれど、奇妙な感覚が混じっていた。
亀頭が触れる度に後孔が吸い付くように収縮してしまう。もし弛緩効果が薄れてきているなら最悪だ。情交の激痛は記憶に残酷な迄にしっかりと刻み込まれている。
焦燥と恐怖、それが交互に押し寄せて新たな涙が滲んでしまった。
「…ぁ…く……涼……」
呼び掛ける声のトーン迄弱々しくなっていく。変わらないのは節操無く勃起したままの性器、先走りに先の出せなかった白濁が混じり、先端は赤く腫れて鬱血していた。
後孔の疼きは脈拍と同じリズムで押し寄せる。その度に数滴の体液が鈴口から吹き出した。
「感じてるだろ」
指摘は鈍器で殴られたような衝撃だった。
「馬鹿、違……ッ…違う…!」
声を張り上げて否定するが、亀頭が縁を刔る度に後孔の疼きが酷くなっているのを自覚してしまった。
――まさか。違う、違う。
理性が鳴らす警鐘を身体が裏切っていく。
性感帯ではない場所で性感を覚えている。それだけではない。
腹の中が勝手に蠢いている。何かを欲しがっている。
「……違う…っ…」
そんな感覚を望む身体なんて欠陥品以外の何物でも無かった。
脱落が未だあるのなら、これが露呈してしまえば俺は間違い無く脱落だった。
同胞は勿論、一般人――否、獣にも劣る、生命的最底辺。
「……何泣いてんだよ」
「泣いて、ない…っ…」
情けなくぼろぼろと涙が零れ落ちていて、気怠く重い右腕の内側、包帯で漸く目許を拭った。
膝裏を押さえ付けていた腕が離れる代わりに涼の二の腕が股を閉じる邪魔をする。
涼の身体が前傾したようで影が濃くなった。右腕を無遠慮に引き剥がされて簡易マットに縫い付けられる。
涼は僅かに眉間に皺作って俺を睨むように見据えていた。やはり、侮蔑、だろうか。
「……そんなに突っ込まれたくない?」
恐ろしい程に静かな低音が囁き掛ける。
当たり前だと強く断言しなければ、と思う。断言しないと獣以下の浅ましい、生き残ってはいけなかった身体だと知られてしまう。
涼には、涼には本当に知られたく無かった。
唯一俺が本気で張り合っていた相手だからだと思う。今、此処にたった二人しか居ないからだと思う。
考える事は全て頭が考えて弾き出した答えだったが、掴み切れない曖昧な違和感が残った。
――そんな事はどうでも良い。
「……当たり、前、だ…」
用意していた答えは涙声に上擦っていた。鳴咽が混じらなかっただけ良かったかもしれない。
涼は沈黙して俺を見下ろしていた。少しも表情を変えずに淡々とした眼差し。
「……ふぅん、そ」
感情が微塵も感じられない、否、興味すら持っていないような呆気無い相槌。
瞬間、体重が掛かり、凶器的な性器の切っ先が侵入を開始する。
「ひ、ぁあっ…んんッ!」
圧倒的な質量に肉の輪がその形に広がっていくのが判った。体勢の息苦しさに更に圧迫感が加わり空気を吸い込む事もままならない。
喉を反らし歯を食い縛っても、下肢には殆ど力が入らず、じりじりと体内を拡張されていく感覚は堪えようがなかった。
再びせり上がってくる射精欲求が焦燥に拍車を掛ける。亀頭の張りが緩んだ襞を更に捩じ開ける、その摩擦が強烈な快感を齎している。



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