5
自分に言い聞かせる言い訳は洞の中に虚しく響く。
「……此処だって安全が確認された訳じゃない。だから、本当にこの馬鹿が動けなくなったら面倒だ。安全を確認して作業を終えてからまた適当に騙せば良い」
長い前髪を左手で掻き上げ、隣で眠っている安居を見下ろす。
――やだ、気持ち悪い、言いたくない。
「……何が気持ち悪いんだよ、安居」
尋ねても答えは返らない。安居は疲労の陰が濃く、顔色も平生より青ざめていた。
まるで、全てが破滅に向かって走っているようだ。
――俺も。
「安居」
口にする名前は何度呼んだか判らない。
「安居」
――俺も、連れて行ってくれ。
安居が向かう先が地獄でも楽園でも構わなかった。
ただ、安居の傍に俺が居れば良い。
気付かれなくても。
見られていなくても。
身を屈めて軽く唇を触れ合わせた。
少し熱い。
この熱が今の俺を支えているのだと、それだけは受け入れた。
それだけしか、認める訳にはいかなかった。
自分の中の数々の矛盾に目を閉じて。
END
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