「そこがいまいち曖昧でな。とにかく俺も非常に痛かったのは確かだ」
嘘は真実の中に入れると嘘と露呈し難い。あの食い付くような締まりが痛かったのは事実だ。
「痛い……ああ、そんな事を聞いたような聞いてないような……」
安居の勤勉は全く有り難い。さりげなく両脚の間に膝を落とし下肢、互いの股間を触れ合わせる。
「お前はどうだった?」
左手を安居の頬に添え親指で目許を撫でながら少しずつ腰を揺らして互いの性器を擦ると、流石の安居もまた眉間に皺を作った。
だが、拒絶の言葉は出ない。茂と触り合った事があるせいか、余り抵抗は感じないのかもしれなかった。
――僅かな苛立ち。
それを意識的に抑え込んだ。
「……どう…って……俺も、痛…かった……」
安居は居心地の悪そうに目線を逸らし、途切れ途切れに漸く一つ白状した。
慣らしが足りなかったのと、安居の引き締まった筋肉のせいで腹圧が強かったのと、恐らくは両方。
当座の処置として使う薬液を変えれば良い。弛緩、鎮静効果のある物が荷物には入っている。感度は鈍るだろうが身体に負担を掛けるよりは良い。
後は回数を重ねていけば勝手に適応する筈だ。事実、安居の意識が朦朧とする頃には中も大分綻んで、うねるように良く絡み付いてきていた。
「痛いだけだったか?」
擦り合わせている股間が徐々に熱を持って来る。安居の性器の方が先に少し勃っていた分、硬度と角度があり、良い刺激になっていた。
――否、安居のみっともない痴態を思い出したからか。
「ん……っ…判ら、ない…」
安居の歪む目許がほんのりと朱に染まる。性感を覚えているのと、情交の感覚を言葉にする羞恥、両方だろう。
「情報の共有は必要だ。覚えてる事を教えてくれ」
習慣のミーティングに則った質問。安居は馬鹿真面目で真っ当だったせいか未だ教官達の刷り込みが良く残っていて、この手口にも弱い。
「熱かった…」
また一つ口にした。声のトーンが少しずつ上擦っている。
「他は?」
「……苦しくて……息が、詰まって…ッ…ん…く…」
安居も思い出して興奮しているのだろう。ただ擦り合わせているだけなのに完全に勃ち上がっている。
明日はどうせ洗濯する服、汚れても構わない。
「もっと、具体的に」
安居の耳元で囁いた吐息が自分でも意外な程、熱い。
「……中、が…擦れて…っ…痛くて…」
「痛かったのは先に聞いた」
左手の人差し指と中指を口に咥え湿らせる。薬液の準備に手こずれば安居は警戒して逃げるに違いない。今日のところは挿入迄至らずとも、取り敢えず内部で達する感覚を再刷り込みするだけで明日以降の状況が格段に有利になる。
腰を浮かせて隙間を作れば互いに互いを追い掛けるように性器が布を押し上げた。
「……それ以上、覚えてない…」
安居は固く双眸を閉ざし無防備に左腕を胸の上で畳み、添え木をした右腕と交差させている。呼吸が浅く乱れ、何処か切なげな表情だった。
濡れた左手を腹側から下着に差し込む。安居は肩を震わせたが拒絶はしなかった。
下着をずらして飛び出してきた性器の裏筋を伝い撫でるとひくひくと腰が揺れ、先端に先走りの玉が浮いた。
同じ物の筈なのに安居の性器は違って見える。屹立が揺れるのが酷く卑猥で、視覚的にも煽られてしまう。
中途半端に引きずり落とされた下着の黒が反り返った性器と陰嚢の淡い色味を強調し、状態とは裏腹の禁欲的な雰囲気を漂わせていた。
陰嚢を親指と薬指で柔く揉み込みながら中指を陰嚢の裏側、会陰に伝わせていく。
「……涼…」
今にも泣き出しそうな声だった。求めるでも拒絶するでも無く、ただ、怯えているような、淋しそうな。
「大丈夫」
耳朶に軽く歯を立ててから外耳に舌を這わせる。右手は頬から側頭部の短い黒髪に。
「力、抜いてろよ」
安居は返答をしない。唇を噛み、不自由な右腕で顔を隠してしまった。
そんな姿にさえ情欲を煽られてしまうのは何故なのか、自分でも判らなかったが、判らないままでいた方がきっと俺達には良いのだろうと漠然と考えた。
「……ん…」
指先は後孔の縁を捕えた。硬い窄まりを丹念に辿ると、ひくり、ひくりと蠢く。視界に収められないのは惜しいが、その蠢動は敏感な指先で十分確かめられた。
安居が胸で深く呼吸を繰り返す。忠告通り、本当に意識的に力を抜こうとしているらしい。
少し意外にも思ったが、それだけ先日の情交が激痛を伴ったのかもしれなかった。
――今日は、気持ち良くしたい。
そんな風に思う。内から突き上げるような欲求と、奇妙な迄に穏やかな願望。
再び考え始めてしまう前に、中指をゆっくりと潜り込ませた。
「……く、ぅ…」
本当に微熱なのかと疑いたくなる程、安居の体内は酷く熱かった。
指を食む肉壁はやはり噛み付くような締まり具合で、軽く押し曲げると張り付く肉襞が追い掛けて来る。
唾液程度の湿り気では何の足しにもならなかったかと思った瞬間、不意に滑る液体が手指を濡らした。
下肢に視線を送ると反り返った性器が脈動を伝えるかのように揺れ、大量の先走りが滴っていた。
「……痛いか?」
取り敢えず確認をしてみる。
「痛い……っ…」
返答は予想通り、けれど前立腺を刺激した訳でも無いのに興奮を強くしたらしいのも事実。
指を引いて先走りの滑りを借り、再度潜り込ませる。
「……ん、ぁ…んっ…」
安居が必死に噛み殺している喘ぎは、狭い洞に反響して、先日聞いた鳴き声より艶めいて鼓膜を震わせた。自分の股間迄疼くように熱くなる。
――普通の、危機的状況下の生理現象だ。
そう言い聞かせないと冷静でいられなかった。
「ふ……く、ぅ…」
指を抜き差しする度に安居が小さく喉を鳴らし、腰を震わせる。
気付けば先より脚が開いていて、まるで押送を歓迎しているかのようだった。
「……安居」
「何、だよ…ッ…」
答える口調は怒っているが、声は掠れて酷く甘い。
「……痛い、だけ?」
もう一度、聞いてみる。
「揶揄わないから、教えて」
本当に自分が発したのかと疑いたくなるような甘ったるい猫撫で声、安居に揶揄われるのは俺の方じゃないかと思う。
そのくらい――俺が、安居に魅了されている。
「……やだ…っ…気持ち悪い…ッ…ん…」
まるで子供のような返答、挿入の拒絶は必ず口にされると予想はしていたが。
「……言い、たく…ない…」
遅れて付け足された台詞に思わず目を瞬かせた。
「早く、終わらせろよ、馬鹿…っ…」
先日も同じように言われたが、今日の意味合いは少し違って聞こえる。これは自惚れなのだろうか。
「……悪かったな、馬鹿で」
結局そんな言い方しか出来なくて、ただ右の指だけが、酷く愛おしそうに、安居の黒髪を撫でている。


■ ■ ■ ■ ■


「触らせろ」と安居は言ったけれど、安居に触られたら自制が効かなくような気がして、結局また強引に押さえ込んで手加減無しに掻き回し、後孔だけで二回射精させて、半ば無理矢理安居の意識を奪った。
「……何をやってるんだ、俺は」
セックスに雪崩込む隙は十分あったし、俺自身も興奮はしていた。
据え膳の真横で抜き、掌に掛かった白濁を情けない思いで見遣る。ふつふつと苛立ちが募り、悔し紛れにその手を安居のTシャツで拭いてしまった。どうせ安居の服は安居自身の精液が掛かっているから今更だ。
「……もう少し、安居が慣れないと駄目だったからだ」



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