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見せ掛けの世界と真実(螢辰.死ネタ.心中)


 




自分と自分の愛する人だけの世界なら
今よりもっと幸せになれたはずなんだ

背徳とか罪悪とか間違ってることも知らずにいれたんだろうから

でもそれが叶わないことだってことも認めてる


だから、さ
一緒に堕ちて、逃げて、二人きりの世界にいこう






「見せ掛けの世界と真実」










暗い、暗い部屋に君を閉じ込めた

夜も朝も分からない
暗い、暗い部屋

そこは俺らだけの世界で
何者も侵すことは出来ない領域

そこのドアを開けたらいるのは君一人、なんて
本当に世界に二人きりみたい

「辰伶、ご飯持って来たよ?」

カタン、テーブルの上に料理を置く

「……いらない」

「なんでっ?昨日も何も食べてないじゃんっ」

「食べたくないんだ…」

「どうして…」

「……すまない」

ぽつりと一言溢してベッドに横たわる

やっとの思いで君を連れ出して逃げ伸びた小さな部屋

辰伶はここに来てからなに一つ食べてない

理由は……分かってる
分かってて、知らないフリをしていた

じゃないとそれを認めてしまいそうで
悲しい真実
逃れられない訳

「ここに置いとくから、ちゃんと食べてね?」

そう言い残して部屋を出る

嗚呼、この世界の無慈悲な神様は二人の世界なんてつくってくれなくて。ただ愚かに足掻く俺達を嘲笑うだけ
幾千の望みを聴き流すだけで気紛れに人々の人生を左右して、逃げ惑う滑稽者には逃げ道を閉ざす
崇める崇拝者達の愚かさには笑いすら渇いた

だから、俺達にも道はない
逃げ道も帰り道も閉ざされた

残った暗闇は二人を堕とすには十分過ぎて

背徳を背負わせたのは俺
罪悪を感じるのも君

ねぇ、それなら二人
どこへ逃げようか?

暗闇の中必死に逃げた俺達は、所詮神の掌の中踊らされてただけ

ただ俺達は愛することを選んだだけなのにね

「辰伶、ご飯食べた?」

暫くしてもう一度部屋へ戻って問いかける

「…………」

無言のまま起き上がらない辰伶

「もう起きる元気もないんでしょ…?お願いだから、」

「……すまない…」

消え入りそうな声
震えてるのは俺が泣かせてるのかな

「辰伶…帰りたいの?」

俺が奪った日常へ、平穏へ
俺達が互いを愛せない世界へ

「…………帰りたく、ない…」

「なら…」

「でもっ、」

俺の声を遮って話す辰伶

「でも、このままでも…」

分かってる。…分かってた
君がそう言うことも

俺達のしてることが無駄なことも

たとえ逃げたところで本当に二人きり、なんかにはなれなくて
そのうち崩れ去ってしまう脆いもの

二人でなんか生きれなくて
世界はいつだって見せ掛け

真実は残酷で、虚しい願いは掻き消される

知っていた。分かっていた。
二人きりで、なんて無理なこと
このまま逃げ続けることも不可能と
知っていたんだ

だから、

「ねぇ、辰伶。本当に二人だけの世界へ行く?」

誰にも邪魔されなくて、干渉も否定もされない世界
二人だけの、世界

俺達以外はなにもいらない

「螢惑…?」

震えてる君の瞳に映すのは俺だけでいい
その肩を抱き寄せるのも、銀色の綺麗な髪を触るのも、心の中を埋めつくすのも、全部俺だけでいい

「二人で、消えようか?」

俺達以外がいる世界から
すべてから逃れてもまだしつこく付きまとう現実から
そんなもの全部捨ててしまえばいい

二人だけになるための代価にはなにも惜しまない

「そうすれば…二人だけになれるのか…?」

不安気な眼差しが俺を捉える
もうずっと、君の笑顔を見ていない
色褪せてしまう前に、世界を変えて
いつだって笑えるようにしてあげたいんだ

「そうだよ。もう誰にも邪魔されない」

背徳も残酷もなくなる
常識や世間もなくなって
俺達だけが正しくなる
二人だけ…なんて、甘い響き

「だったら、何も恐くないな」

弱りきった身体を起こして
綺麗に、綺麗に微笑んだ

もうこの笑顔も俺だけのもの

「一緒に、逝こう…?」

俺は持ってきたナイフをそっと首にあてた

ひやり、冷たい感触が心地好い
熱を持つものは俺と辰伶だけでいい

「ああ、逝こう。」

辰伶もまたゆっくりとナイフを首にあてた
君の白く長い綺麗な首
それが紅に染まるなんて、二人の世界の幕開けには素晴らしすぎる

「辰伶…ずっと、ずっと一緒だよ」

首に食い込んでいく刃
温かな血液が溢れでる
ドクン、ドクン、後少しだけ動く心臓がこんなにも高鳴るのは君を独占出来る瞬間が近づいているから

「ああ、もちろんだ」

君の綺麗な血がゆっくりと下へ伝い落ちる

「――――――」

「――――――」

……っ!!
俺達は互いに微笑み合うと一気にナイフを引いた
真っ赤な血が吹き出している

その先で優しく微笑む辰伶だんだんとボヤけていく視界
遠ざかっていく意識

俺達は今とても幸せで、これからもずっとずっと幸せなんだ

さぁ、逝こう
俺達だけの世界へ


「辰伶…愛してる、」

「俺も愛してる、螢惑…」

最後に交わした言葉が頭の中で反響する


二人だけになりたかっただけなのに
俺達は随分遠回りしたね

ここまで来ればもう、神にだって邪魔出来ない

二人だけの世界へ、さぁ逝こう






*-見せ掛けの世界と真実-終*





 







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