中編(斎藤一) | ナノ




とある屋敷の一角で布団に横になる娘の姿があった。
その娘の傍で腰を下ろしているのは、名前。




「姉ちゃん、何かいい事でもあった?」




15歳くらいであろう娘が静かに口を開く。




『いい事?
んー、特に何もないんだけど.....何で?』




その問を表情一つ変えずに名前が尋ね返す。



「なんとなく、そんな気がしたから」


『...............。
そうだなぁ、強いて言うなら見ず知らずの人に
助けてもらったことかな』


「なになに!?その話聞きたい!聞かせてよっ」


『聞きたいなら、まずは安静にすること。
それと...』


「薬も忘れずに飲む。でしょ?」


『あら、よくお分かりで。
出来た妹をもって、姉ちゃんは誇らしいよ』



そう言って名前は静かに笑う。



「だって姉ちゃん、そればっかりなんだもん。
もうね、耳にタコが出来そう」



どうやらその娘、名前の妹らしく
名前は苗字妹。




『さっきの話は、また今度してあげるから
今は疲れもあるだろうし、ゆっくり休むことだね』



名前の言葉に妹は、渋々返事をした。
そして....



「......本当にこれでよかったのかな...。
京に来て本当によかったのかな...」



『何言ってんの。
先生だってこれが一番いい選択だって言ってたでしょ』



名前は、か細く呟いた妹の言葉を
最後まで聞く事もなく口を挟んだ。




「でも...お金...。
うちにそんなお金があるとは思えないよ!」


『またその話?
こっちも耳にタコが出来そうなんですけど』


「だってそうじゃない!
両親がいない私達が、明日生きていく事も困難なのに
何で生活出来てるの!
何で..こうやって治療も出来ているの!
こんな入院施設に入れている事にも違和感があるし!」


『あのさ、私だって馬鹿じゃないんだからねー。
親がいた時に貯めてたのー。
いつ何時、何があるかなんて予測出来ないんだから』


「で...でも...」


『いーい。
お金の事は金輪際、口にしないこと!
あんたは治療に専念してればいいの。
わかった?』



名前の鋭い目付きに、妹はコクリと
頷く事しか出来なかった。



「ねー、もしかしてまだ....あのこと気にしてる?
あれは私が勝手...」


『ごめん、妹。まだ住居探しの途中だから行くねっ』


「あっ、姉ちゃん!」




部屋を出ようとした名前を妹が呼び止める。




「一つだけ聞かせて。
........大丈夫なんだよね?無理...してないよね?」


『大丈夫だよ、無理もしてないよ』


名前はニッコリと笑みを見せると
再び歩き出した。



「ーーーーーーー嘘つき、」



ボソっと妹は、静かに零した。






妹の妹は、病に侵されている。
病が発覚したのは、数年前のこと。
それも治療例の少ない病気。


その頃の私は、両親が江戸で営んでいる飯屋を
手伝いし、生活を送っていた。


経営は順調だったが
冒頭の通り、妹に病が発覚。
当然、莫大な治療費が家計を圧迫していく。


それでも私は妹を救いたかった。
何があっても、何をしてでも助けたかった。
だってそうでもしないとーーーーーー。


だけど私の想いを知らない両親は、呆気なく私達姉妹を見捨て夜逃げ。
それだけ生活が苦しかったのだろう。

きっと考えて考えた挙句の決断だったに違いない。
いや、そう思いたい。


私は妹を治療してくれる医者を探したが、何せよ治療例の少ない病。
大金があれば違ったのだろうけど、なかなか妹を
診てくれる医者とは出会えなかった。


けれどもそんなある日、妹を診てくれる医者と
巡り会えた。
奇跡としか言いようがない。



人から何を言われようが、何だろうが、
私は何も怖くない。

店を閉め、江戸から京に渡ったのには訳がある。
治安が良くないと聞いてはいたが、それでも行かなきゃいけなかったんだ.......。










[*prev] [next#]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -