もう朝だ......。
あれからほとんど眠れなかった。
だけど今日から真選組女中という職に着く。
余計な事は考えずに自分のすべき仕事をこなさないと
近藤さんの顔に泥を塗るはめになる。
それだけは何としてでも避けなければならない。
『おはようございます。
今日から宜しくお願い致します』
身支度を済ませた名前は、女中達の所へと
顔を出した。
「こちらこそ宜しくね。
じゃぁ早速なんだけど、仕事にとりかかろうか」
まずは朝食作りから始まるらしく、食堂へと足を運ぶと
あり得ない程の量の食材が調理場を占領していた。
『す....凄い量の食材ですね; 』
「みんな最初はそう言うよ(苦笑)
じゃぁ作って行こうか!」
ある程度、朝食を作っていると
隊士たちが道場へと向かって行く。
道場で汗をかいた後は、お風呂へ。
その後、続々と隊士達が食堂へとやって来た。
「名前ちゃん、おはよう!」
『山崎さん、おはようございます!
あれ?
そう言えば、沖田さんの姿が見えませんが、今日は
お休みですか?』
「あー、沖田隊長はサボりだと思います」
山崎の言い方だと、それは日常茶飯事の事らしい。
『私、様子見てきますね』
名前は沖田の部屋へと直ぐに向かった。
『ーーーーー沖田さん??』
呼びかけてみるも全く返事がない。
『苗字です、入りますよ?』
名前が一声かけてから襖をあけると
変なアイマスクを着けて寝ている沖田の姿があった。
『沖田さん、起きてください!』
名前は変なアイマスクを擦り上げながら言うが
それでもまだ気持ちよさそうに眠っている沖田。
『....フフッ、顔は美少年なのにね』
つい笑みをこぼしながら本音が口を滑らす。
「その言い方だと、心は美少年じゃないって事ですかィ?」
気持ち良さげに眠っていたはずの沖田が
目をカッと見開いていた。
『えっ..........ちょ、ちょっと! 起きてるなら返事して
下さいよ;
てか沖田さん、怖いです; 』
「昨日の夜、野郎の部屋に行ったようですけど
何でさァ?」
『昨日の夜?
あぁ〜、眠れなくて部屋を出たら明かりがまだ
付いていたので、お茶をお持ちしたんです』
「....テメーは、頭も馬鹿で軽い女でさァ」
『いや、それ失礼ですよね;
と言うより、何か勘違いしてませんか?』
「あれ、違いやしたか?」
『違います!!
もう寝てていーですからっ;
もう起きて来なくていいです!
呉々も他の隊士の方々に変な噂流さないで下だ...』
「テメーら、何やってんだ、」
背後から低い声し、振り返ると土方の姿が...。
『ひ、土方さんっ!』
何でこのタイミングで現れるの;
驚いて声が裏返っちゃったし;
『てか沖田さん、何やってるんですか、』
再び視線を戻すと、沖田が布団の中に潜り込もうとしていた。
「名前が寝ろって言うから、もう一眠りしようか...」
『冗談に決まってるでしょ、』
「総悟、さっさと飯食ってきやがれ」
「へぇー、へぇー」
土方に言われ、沖田は渋々食堂へと向かった。
「ーーーーーーー名前...飯うまかった」
沖田がいない事を確信した土方は、小さく名前に
言った。
『ーーーーー///// 』
い、今名前って!
名前って名前読んでくれた!!??
自分の顔が、どんどん赤く染まるのが分かる。
『お口に合って、よ...よかったです。
私、片付けしてきますねっ!』
名前は、慌てて食堂へと向かった。
息を切らしながら食堂に着くと、女中の方達が冷蔵庫の前で
中腰になり、何やら話し込んでいた。
『どーかしたんですか?』
「あっ名前ちゃん!
実はね...今朝なくなっちゃったのよ。」
『なくなった??』
なくなったとは何の事なのだろうか。
...まさか!泥棒でも入ったのか!?
「ーーーーーマヨネーズがなくなったのよ; 」
まよねーず?
「まさかストックしていたマヨネーズまで使い切るなんて...
名前ちゃんが作った煮物が余程美味しかったのね!」
マヨネーズということは...
『もしかして土方さんですか?』
「えぇ、おかわりをよくしていたから教えたのよっ!
この煮物は名前ちゃんが作ったってね」
「昼食までにはマヨネーズ買っておかないとね」
『あのっ...!私が買いに行ってもいいですか?』
ーーーーーーーという訳で、マヨネーズを買いに
行くこととなっ私。
あまりに嬉しかったものだから
つい顔がニヤけてしまっていたようで...
「ニヤニヤして、名前はムッツリなんですねィ」
廊下でばったり会った沖田に言われた一言。
『人を変態みたいに言わないでくれます?; 』
「ちがいやしたか?」
『断じて違います!』
「あ、そうそう。
さっき見廻りしてたら万事屋の旦那に会いやして...
名前とデートしたいって言うもんでィ、デートの日時を
決めてきやした」
『勝手に決めないでくれるかな; 』
「名前は明日が非番。
なんでデートは明日にしやした」
『なに、それは嫌がらせ?; 』
「まぁ、楽しんできてくだせェ」
『ちょっと!』
沖田はヒラヒラと手を振りながら行ってしまった。
どうしよう.........。
別に銀さんが嫌いだとかそういうのではない。
その後、名前はスーパーでマヨネーズを袋一杯
購入し、屯所に帰宅した。
一方、土方と沖田はパトカーで見廻りをしていた。
「土方さん、明日名前が万事屋の旦那と
デートらしいでさァ」
「万事屋と?」
「まぁ、俺が勝手にデート承諾して日時まで
決めてきやしたんですがねィ」
「いい迷惑だろうな; 」
「名前見てると、おもしれェんでさァ。年上のくせして年下みてェから、からかいがあるんでィ。
ーーーーーー旦那は名前に惚れてやす。
何しでかすか分かりやしねェー」
そう言いながらも楽しそうに笑う沖田。
「笑い事じゃねェーだろ; 」
そして同日の夜ーーーーー。
今夜もなかなか眠りにつけなくて、屯所内にある桜の木を
縁側に座って眺めていた。
「ーーーーーまだ起きてたのか?」
振り向かずとも分かる声の主。
『また眠れなくて桜の木を見てました。
まぁ、私が来る前から
とっくに散ってるんですけどね(苦笑)』
土方は名前の隣に静かに腰を降ろした。
「明日、万事屋とデートするって総悟が...」
『そうなんです。
でも約束して来たのは、沖田さん何ですけどね』
「行くのか?」
『沖田さんの顔もありますし...』
「何かされそうになったら直ぐに連絡しろ、」
『.....連絡先知りませんけどね』
そう言って名前は静かに笑う。
「ーーーーーーほら、」
土方が自身の手のひらを名前に差し出すが
状況がよく分かっていない名前。
「け、携帯かしやがれっつってんだよ///」
『いいんですか?』
「何がだよ」
『副長というお方の連絡先を女中なんかに教えても...』
「いいから早く出せ、」
名前は懐から自身の携帯を取り出し、土方に差し出した。
「ーーーーーほらよ。
俺もお前の連絡先、登録しといたからよ」
『はい』
「ーーーーー/// 」
私が笑顔を見せると、一瞬だけ土方さんが照れたような
そんな気がした。
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