03
1日前――
今日も応接室にいた。
今日は、ラウと京子は居らず静かに本を読んでいた。
恭弥は残念ながら風紀委員の仕事中で余裕がない。
刻々と何もないまま時間が過ぎていくなか、応接室に1人、京子がきた。
黎架『おや、1人とは珍しいな。ラウは一緒じゃないのか。』
そう聞くと、真剣な眼差しで私をジッと見つめてきた。
その様子に、わたしは京子の気持ちを察した。
黎架『何を聞きにきたんだ?』
京子「…お姉さんたちの事情、復讐者のこと、暗殺者のこと、です。」
ぐっと拳を握って見つめてくる京子の様子で、その決意の固さがわかった。
恭弥のほうをちらとみると勝手に話せば、とでも言いたげな顔をして仕事をしていた。
近くに私たち以外の気配がないか探し、ないとわかると話を始めた。
黎架『復讐者っていうのは、裏社会での秩序。それだけに誰も奴らに逆らうことなどできない。根強い存在と言うこと。』
京子「秩序…」
秩序とはルールのこと。
京子は裏社会のルールが何かは知らないだろうが、裏社会がどんなものだかは知っている。
だから、大体想像つくだろう。
勿論、地味に聞いている恭弥は裏社会の住民だから、知っているだろう。
黎架『次に、暗殺者ね。私たち暗殺者は依頼人を秩序とし、私利私欲のためにその仕事を使わない。あまり人目に付かないの。』
京子「私利私欲で、殺す…」
私利私欲の殺しではただの無差別殺人や殺し魔になってしまう。
私たちは依頼人から頼まれた仕事を表沙汰にせず裏に隠して完璧にこなす。
隠蔽しなければこちらの世界では大変な事態になるだろう。
そして、私達はその暗殺者たちの頂点に立っている。
黎架『最後に、私たちのことなんだけど…』
京子「…言えないようなこと、ですか?」
いや、と返事はするが正直本当に言っていいのかという戸惑いがあった。
恭弥やラウさえも知らない、家族や敵、ボンゴレの真実や、わたしが今までについていた嘘のことも全てこの話でわかるから。
それでも私は京子に応えよう。
黎架『いいよ、話そう。全ての真実と事実を。』
いつもより低い声音で決心を告げた。
屋上――
昨日、少し姉さんを怒らせてしまった。
応接室に行くのは俺的に気まずいから屋上で寝ることにした。
正直、姉さんの言うことだってわかるけど…
考える度に頭が痛くなる。
眠ろうと目をつむるが見えてくる情景が酷く残酷で悲惨なものでなかなか眠れない。
ラウ『うっ…』
いつもこうやって思い出すのは、いなくなってしまった兄と姉の変わり果てた、姿。
力のなかった俺と、未来のある姉さんを守るために、襲ってきた敵を足止めして俺たちを逃がしてくれた兄と姉。
俺が姉さんに我が儘を言ってアノ場に戻らなければ、その姿を見なくてすんだのに。
周りにはそれはもう人間かわからないぐらいグロテスクな死体で、あるはずのものがなかったり、曲がらないはずの方向に曲がったり――
ラウ『あぁっ!もうっ!』
そう言って回想を遮ると、
「うわっ、」
と間抜けた叫び声を出した奴がいた。
さすがに回想していたからといって俺がわからないわけがない、そう思い振り向くとそこにいたのは一般人でも誰でもなく馨羅だった。
なんだ馨羅か…と思った後、ふと一つの疑問が浮かぶ。
普段は2人で1つの馨羅は絢疾と一緒に行動しているはずだし、基本的姉さんのほうに行くはずだ。
何故なんだろう。
ラウ『絢疾は?』
馨羅「彩は、じゃなかった。黎架のところ。」
ラウ『やっぱりな。ところで、馨羅は?』
なんで此処に?
そう聞くと馨羅は考え込んだ。
何か理由を探しているようで、その姿が屋上で見られるとはなんて傑作なのだろう。
馨羅が考え込むなんてそれくらい珍しいことなんだ。
気づくと彼女は微笑みながら言った。
馨羅「ラウが心配だった、じゃだめ?」
ラウ『俺に仲間となんてそんな趣味はないが?』
そう言った途端、彼女は笑い出した。
何かおかしなことでもしただろうかと聞くと、そういう意味じゃないんだけどなぁ、と笑いをこらえながら言った。
馨羅「私は家族的な意味を指していたんだけど、」
ラウ『…勘違いだったな…』
俺もつられて笑い出した。
笑いの連鎖はとても幸せなもの。
俺たちにそんなものがたくさんある訳ない。
その分この幸せに感謝しよう。
馨羅「そういえば、後悔はしていないの?
――京子ちゃんを巻き込んだこと。」
そう聞かれて、心臓が跳ねた。
京子を巻き込んだことに後悔はあるのか。
自分を苛む痛みがある、重く澱んだ水に似たようなものが心の奥に膨れ上がる。
自分の脳裏に真実を知った京子の顔がよぎる。
今も彼女は笑顔で過ごしている。
後悔はしているか
ラウ『――…いいや。』
かすれた声で呟いた。
小さい声だが、しかし確実に。
ラウ『いいや…。後悔は、していない。』
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