零崎刹識の人間刹那 | ナノ

第十四章






室内に入ると響くピアノの音。
ただ響くだけではなく響き渡っていて、聞くだけで頭が痛くなった。


輝識「流石、曲識の最大の根城。」
曲識「輝識、そんな風に言うのも悪くない。…だが、音楽とは素晴らしいものだが、そうは思わないか?」


ここ、クラッシュクラシックと言うお店は曲識が経営しているお店で、また最大の根城でもあった。

《少女趣味》こと零崎曲識は、何より音楽を愛する。
黒いマラカスを《少女趣味》と呼び、また自らの声すらも武器にしてしまうのだった。
しまいには、曲識はあるきっかけで少女しか殺さなくなったのだ。

いや、違うな。
少女という条件の下零崎を開始するのが彼だ。


輝識「あのさぁ、」


コーヒーを淹れながら俺の話を聞くべく曲識は耳を傾けていた。
曲識は戦争経験者だ。
自分から飛び込んだんだがな。
だが、今回は違う。


輝識「戦争を、始めるって言ったらどうする?」
曲識「そうだな…。まぁ、戦争も悪くない。ところで、今回はどこの一族と衝突したんだ?」


"今回は"と言う言葉、他の奴には何も意味を持たないが俺たち零崎にはとてつもない意味を持つ。

俺たち零崎は、何回も他の奴らと衝突を繰り返している。
匂宮と衝突したやつもいた。
可愛らしい策士と衝突したときもあった。
異例の組み合わせでの暗殺も衝突もした。
狐と衝突したのは曲識だったか。
あぁ、早蕨の三兄弟と衝突したこともあったな。
とにかく、零崎にあの危険人物がいる限りこの問題は解決しないのだろう。
全く厄介な話で面白い。


輝識「今回は分家さ。――祭奏って奴らなんだけどさ。」
曲識「あぁ、最近消滅しかけた奴らじゃないか…。それで、僕は必要か?」


コーヒーを差し出しながら問いかけた曲識に答えを返すべく俺は悩んだ。


輝識「そうだな…、取り敢えず敵がどれぐらいなのかなんてわからないからな。必要、だと思うぜ。」


そう言ってコーヒーを口にした。
曲識はそうか、と納得しながら言葉を漏らした。

衝突にそんなに意味はない。
だがしかし、俺たちにとっては衝突は鍵になる。
新しい家賊が見つかったり、家賊が覚醒したり、成長したりする場だから。
家賊1人が衝突すれば家賊全員が衝突する。
それが零崎、それが家賊。


曲識「そういえば、輝識は1人なのか?」
輝識「いんや、刹識の奴も来てる。」


何で入らないのかはわからないけどな、と笑う。
曲識は薄く微笑むと奥に入り、箱を持って戻ってきた。
箱の中身はいざ知らず。
勿論、《少女趣味》に決まっている。
すると曲識は店内に次々と楽器を出してきた。
ファゴットにフルート、クラリネットにオーボエも。
いろんな楽器があった。


輝識「曲識、これは…?」
曲識「僕も戦いに身を投じるんだ。武器を用意しておくのも…悪くないと思ってな。」


沢山の楽器は曲識の武器になる。
沢山の音は曲識の武器になる。
曲識は音楽家で、珍しいタイプの音遣いで楽器がなくても戦える音遣いだ。
相手を操ることも出来る、味方を操ることも出来る。
つまり、敵も味方も関係なく操ることも出来るのだ。


輝識「そろそろ行くわ。じゃ、よろしくな曲識。」
曲識「あぁ…。刹識によろしくと、」
輝識「わかった。」


俺はお金を払うと、振り向きもせず手を振ってお店から出て行った。







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