「名字名前さん」 「……?」 「あれ、名前違う?名字名前さん」 「は、はい。わたしです」 「どーも。お見舞いにきました」 「お見舞い」 「友達からは何て呼ばれてます?」 「普通に、名前って」 「じゃ、名前ちゃんか」 「………」 「あ、嫌だった?」 「いえ、そんなことは」 「名前ちゃん、俺のこと覚えてる?」 「………わたしを、助けてくれた、ヒーロー」 「正解。偉い偉い。ちなみに名前はホークス」 「ホークスさん」 「そう」 「羽が」 「ああこれ?」 「きれいですね。きれいな色」 「1枚あげようか」 「いいんですか?」 「どーぞ」 「ありがとうございます。個性ですか?」 「そうそう」 「いいなあ」 「君の個性は?」 「………」 「言いたくなかったら言わなくてもいいけど」 「パズルが」 「パズル?」 「パズルが、得意だったんです。ジグソーパズルとか。パズルゲームとか」 「へえ。クロスワードパズルは?」 「あれは知識が問われるのでダメです」 「そうなんだ」 「ルービックキューブとか。知恵の輪とか。どうすれば解けるのか、それが考えなくともわかる。それがわたしの個性でした」 「今日、ルービックキューブ持って来ればよかった。見たかったよ」 「披露できなくて残念です」 「こどものころはちょっとした人気者でした。両親にもよく褒められて」 「そうなんだ」 「……だけど違いました。わたしの個性はパズルを解くことじゃなかった」 「うん」 「物事を解析すること。それがわたしの個性でした」 「………」 「仕組みがわかれば本能で解ける。それが何かわからなくても。自分が何をやっているのかわからなくても」 「………」 「わたしはきっと悪いことをたくさんしたんですよね。わけもわからずキーボードを叩き続け、そのたびに彼らの言う“借金”が減っていきました」 「………」 「気味が悪かったです。自分でも知らなかった個性を知らない人間に暴かれて、わけもわからず個性を延々と使い続けて。悲しむ暇もなかった。怖がる暇もなかった。手を動かし続けないと、一生このままだと思っていたから」 「………君が攫われる数週間前に、役所の個性届のデータが何者かにアクセスされていた。組織にとって都合のいい個性を探し出して、あの組織は君を見つけた。君を攫い、君の個性を利用した」 「わたしの個性を利用するために両親を?」 「………」 「これから」 「うん」 「これから、どうすればいいのかわからないんです」 「……何もしないっていうのは?」 「物理的に無理じゃないですか。今は病院にいるけれど、ここからは出ないといけない。住む場所も、家族もない。友人にだってもう会えない。学校にだって行けない」 「………」 「変な噂が流れるに決まってる。だけど新しいところで、誰の手も借りずに生きられるほど、わたし、強くないです」 「…………」 「名前ちゃん」 「………」 「名前ちゃん」 「………はい?」 「空飛んだこと、ある?」 「………え」 「おいで」 「………無理です」 「何で?」 「だ、だって、飛んだことないし、それに、靴だって、スリッパしかないし」 「また靴かよ。変わってンなあ」 「そんなこと、」 「いいから。おいで」 「と、飛んでる!」 「飛ぶの初めて?」 「はい!!」 「どう気分は」 「ホールニューワールドって感じ……」 「靴なくても飛べるでしょ」 「スリッパだったらアウトでした。裸足でよかった」 「そこかよ」 「………ホークスさん」 「うん」 「ありがとうございます。なんだか、ものすごく前向きな気持ちになれました」 「………それはよかった」 「大丈夫な気がします。人生何とかなる気がする。ありがとうございました。もう大丈夫です」 「………」 「名前ちゃん」 「………はい?」 「パソコン得意?」 「………え」 「いま、俺の事務所の事務やってくれる子を探してるんだけど」 (180930) |