「あなたはだれ?わたしのことをころしにきたの?」
「…………」
「もうすぐ終わるから、もう少し待って。はやくこの作業を終わらせるから。絶対成功させるから。大丈夫」
「………俺は君を助けに来たヒーローです」
「………ヒーロー?」
「おいで」
「…………靴がないから、怪我しちゃう。ガラスが割れてるから」
「靴?ああ、」

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「いやしかし、あの反社会的組織レジスタンスを一人で壊滅に追い込むとは!事務所を立ち上げたばかりだというのに流石!」
「たまたまですよ」
「ニュースはホークス一色ですよ。話題性も大きい。今年のビルボードチャートにも影響しますよ」
「そういうのはどうでもいいんですよ。…で、あの女の子の容体は?」
「我々が保護してから落ち着いています。受け答えもしっかりしていますし、身体・精神検査の結果も異状はありません。ただ……」
「ただ?」
「今後の社会復帰は難しいかもしれない。勿論それを支援していくのも我々警察の務めですが、精神的ショックが大きいようですね」
「………」
「彼女には伝えていませんが、妙な噂が立っているのも事実です。両親が殺され、その娘が拉致をされている。抑えられる範囲では抑えていますが、マスコミも好き勝手言うと思います。勿論彼女の周りの、以前の彼女の家族を知る人間たちも。現実よりも残酷な想像をするでしょう」
「………彼女に会うことはできますか?」
「今は病院に入院しています。勿論可能ですよ」

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「ホークスさん、わたしと初めて会った日のこと、覚えてますか?」
「忘れるわけないでしょ。………つーか今する話?名前ちゃん嫌かなと思って俺あんまり触れないようにしてるんだけど」
「変な気を遣われる方が傷つきますよ」

「“あなたはだれ?わたしのことをころしにきたの?”ってあまりに淡々というからこの子ヤバいなって思った」
「ずっと軟禁されてたんですよ。その部屋がいきなり壊されて、武器持った男の人が入ってきたら命の危険感じますよ」
「危険を感じてるようには見えなかったし、俺的には“わたしのことをたすけにきたの?”って言ってほしかった」
「ホークスさんのビジュアルがオールマイトだったら言ってたかなあー」
「ビジュアルの問題?そのあとに「靴がないから……」とか言ってくるし。そこかよって」
「そこですよ!あの部屋、フローリングなのにずっと裸足だったんですよ。スリッパか靴下くれってずっと思ってた」
「へえ」
「衣食住には困らなかったけど、強いて言うならそれ。最初の契約通り指一本触れられなかったし、乱暴されたりもなかったし、何なら服はやたら上質だったけど」
「上質だったんだ」
「あれはカシミヤですよ」
「カシミヤ」
「靴下かスリッパをくれ!服はポリエステルでいいから!って思ってました。ずっと」
「そこ?名前ちゃんやっぱり変わってるよ」

「つーかこの話やめようよ。初めて彼氏の部屋に来たのにする話でもないでしょ」
「初心に返ろうかなと……」
「返ってどうするの。あの時は俺のこと好きでも何でもなかったでしょ」
「まあ……」
「否定してよ」

「何だかもったいない気もするなァ」
「え?」
「ずっと大事にしてきたから。俺にしてはスローペースで」
「は、はやすぎるおとこ……」
「いや俺早漏じゃないからね」
「………それはともかくとして、もっと手を出されるのも速いかなと」

「名前ちゃんはさァ」
「はい?」
「恋愛感情を除いたとしても、俺に恩義を感じてる。俺の言うことは何でも受け入れる。それがどれだけ無体なことでも」
「そうですね」
「否定してよ。……だから、俺がすぐに先に進んでも許しちゃうでしょ。嫌でも」
「そもそもホークスさんにされて嫌なことなんて」
「そういうとこ。だから大事にしたいなって思った」
「………そういうものです?」
「うん。だから痛かったら痛いって言って。どうせネットで予習してきたんでしょ」
「………ろ、ローション使えば何とかなるって」
「ほんっとに偏った知識披露してくるなァ……」

「わたし」
「うん」
「ホークスさんに名前呼ばれるの、好きです」
「名前ちゃん」
「はい。……だから、たくさん呼んで欲しいです」
「もっと他にオネダリないの?無欲だなァ。俺は欲しいものは我慢できないのに」
「わたしのことは我慢してくれたじゃないですか」
「………そーだね」

「名前ちゃん」
「はい?」
「おいで」

(180930)