「もう一人サイドキック雇おうと思う。それか事務員。名前ちゃんがいなくならないように見張っててもらう」
「いやいやいやいや」

 業務を終え「おつかれっしたー」と帰っていくサイドキックの方々を見送ったら自動的に二人っきりになった。ぎゅーっと後ろからハグされてとんでもないことを言われ、上手につっこめなかった。

「わたしはどこにも行きませんよ」
「……」
「待って待ってここ職場」
「誰もおらん」
「そういう問題じゃない」
「じゃあ早く部屋行こ」
「せっかちだな……」

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 その日は休みの日の前日ということもあり本当に朝まで離してもらえなくて、それどころかごはんもお風呂もずーっと見張られていた。お風呂は別が良いと言ったのだけれど、「心配だから」とぶりっこされて絆されてしまった。本心には変わりないんだろうけど表情がめちゃくちゃあざとかった。気を抜いたら「あざとくて何が悪いの?」と言い出しそうなくらい。そのままお風呂でもベッドでもめちゃくちゃ甘やかされたのである。

「何か俺に……してほしいことある?」
「え。なにこわい。浮気でもしました?」
「それマジで言ってる?あれだけシたのにまだ“わかんない”?」
「待って待って冗談!わかった!わかってますから!」

 ぐぐっと膝を持たれて足を開かれそうになり、必死で抵抗すると冗談だと言う主張が通じたらしい。夜通し「誰に抱かれてる?」「俺のことどう思ってる?」「いやとかやめてって言わないで」「安心させて」だとかなんとかめちゃくちゃ“わからせられた”ので、疲労困憊でくたくたなのである。

「いやグラントリノさんに怒られて反省してる」
「怒られたの」
「うん。俺のことあんまり怒らないでってお手紙に書いてくれない?」
「いやたぶん書かないと思う」
「なんで」
「なんで……?」
「まさかここで親への挨拶的なイベントあるとは思わんかった。失敗したし。初手でしくじった。詰めが甘かった……」

 ぼそぼそと恋人は何やら呟いている。グラントリノさんのお弟子さんらしい雄英の指を怪我する子みたいだなあ。そう考えながら先ほどの質問を考える。してほしいこと。わたしはかねてから憧れていたことを呟く。

「あ、あのね」
「うん」
「跪いて「好きだよ」って言ってほしい」
「……」
「あとね、壁ドンして「さっきの男誰?」って言ってほしい」
「……」
「あとね、女子会だと思っていたら実は合コンでそこに颯爽と現れて「この子俺のなんで」って言ってほしい」
「……」
「あとね、百回キスしないと出られない部屋で」
「えっまだある!?てゆかそんな部屋ある!?」
「いっぱいある。無限に出る。あとそんな部屋はある」
「いやあの……聞いといてなんだけどその……俺にそんなことさせて楽しい?」
「え、してほしい」
「……」
「いや途中からは冗談です。スキャンダルになるし。てゆか友達いないから女子会も合コンも誘われないし」

 わたしの言葉にホークスさんはめちゃくちゃ嫌そうな顔をしている。ベッドで恋人にする顔ではない。

「聞いといて申し訳ないけど全部無理」
「えっじゃあなんできいた!?」
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「エンデヴァーさん」
「?どうした」
「エンデヴァーさん、奥さんにプロポーズなんて言いました?親への挨拶とか」
「……俺に聞くか?」
「確かにエンデヴァーさんご両親ウケ悪そうっすもんね」
「いやそうじゃない!いやそうだが!」

 フレイムヒーローエンデヴァーは「よりにもよって家族の話を俺に振るか?酔狂かこいつは」という表情も隠しもせずに眉を顰める。それにポジティブな勘違いをしたらしいウイングヒーローホークスは明るい声で呟いた。

「俺は媚びないあなたが好きです。安心して下さい」
「いや何の話だ!?あと気色の悪いことを言うな!」

(221016)