どうしようもなくイライラすることが多い。

「体操服ありがとう!よかったら今日持って帰って洗濯するよ」
「午後から使うっつってんだろバカ」
「汗かいちゃったかもごめんね」
「はァ!?」
「真冬でもないのに汗かくなっていう方が無理でしょ」
「………チッ、」

 能天気な顔をしている目の前の女の手から、貸したものを奪う。その女は微笑む。

「だけど助かりました。ありがとう」
「………別に」

 その女のこの表情を見ると、自分が自分じゃなくなるような気がする。漠然としていて自分でも何を言っているのかわからない。それが無性に腹立たしい。

 世界の中心は俺だ。俺は何者にも影響されない。俺のために世界は道を空けるべきだ。そう思っていた。自分が世界の中心であると。だけれど、この女が目の前にいると、そう思えなくなってしまう。由々しき事態だ。

 俺が何か他人に、影響を受けるなんて馬鹿げている。他人のことを気にするなんて、俺らしくもない。だけれどこの女の前だと、どうしようもなくそわそわしてしまう。その事態にイラつき、爆破しようと試みるが、掌が熱を持つことはない。

「爆豪くんも忘れたら貸してあげるね」
「忘れるわけねーだろ端役が!」
「端役じゃないよわたしの名前」
「うるせえ」
「ねえねえ呼んでみて」
「………」

 この女以外に言われたら、きっと女だろうが爆破している。だけれどどうしても、掌は熱を持たない。俺はこの女の前で、個性を使えないのだ。

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「あの女」
「名前ちゃんのことか?」
「個性、無効化だろ」
「………まだ聞いてなかったのか?」

 幼馴染だという男に尋ねるが、驚いたような表情をされて腹が立つ。その通りだ。俺はまだ、あいつから個性を聞いていない。何度か試みたことはあった。だけれど毎回はぐらかされているのだ。

「まあ………誰にでも話したくないことはあるだろう」
「はァ!?自分の個性を隠したいやつなんているのかよ!?」

 俺の言葉に、デクが肩を揺らした。一々うぜえ反応してんじゃねえ。そう思い振り返り睨みつけると、怯えたような表情をされた。うぜえ。

「俺の口からは言えん」
「はァ!?」
「だが、無理強いして聞き出すのもよくない」
「はァ!?殺すぞ!」
「物騒なことを言うのはやめたまえ!」

 クラス委員らしい物言いに腹が立つ。思わず席を立ったその時であった。

「つーか爆豪、彼女に経営科の子紹介してもらってくれ!」
「はァ!?彼女じゃねーっつってんだろ!」
「じゃあ俺にあの子紹介して!」
「しねーわ!」

 アホ面の言葉を聞き怒鳴りつけると、アホ面はしみじみと呟いた。

「いやけど経営科のトップかーすげーよなあ」
「あ?」
「経営科ってあれだろ?勘がすげー鋭い個性とか、記憶系の個性とかいるって聞くじゃん」
「知らねーよ」
「その中でトップだからすげーんだろうなあ」

 あいつもそのような個性なのだろうか。そう思った瞬間だった。

「だって、無個性だろ?あの子」
「………は、」
「おい!」

 アホ面の言葉に、俺は思わず言葉を失う。

「何だよ飯田、噂になってんじゃん。経営科のトップの子は無個性だって」
「何!?噂になってるのか!?」
「無個性だけど超かわいいって」
「………まあ、それはそうだが」
「えっお前もあの子狙いなの?」
「違う!俺はそのような不誠実な気持ちで彼女に接していない!」
「不誠実ってお前」

 無個性、だと。つまり、俺があの女を爆破できないのは、あの女の前で個性を使えないのは、あの女の個性に拠るものではない。いやそもそも、無個性。舌打ちをした後、足で教室のドアを開ける。

「おい、爆豪くん!?足で開けるとは行儀が」
「うるせえ」

 ――噂なんて信じられるか。自分で確かめないと意味がない。

(170306)