「計算通りって感じ」
「お前のスコアは全く計算通りじゃねーよ!」

 何回ガーターを取ったかわかってるのかこの女。結果は散々だった。この女個人の結果である。ペアとしては2ゲームとも俺が勝利した。当然の結果だ。

「あみだくじに細工をした甲斐があった」
「やっぱりあれ仕組んでやがったんだな」
「勿論。だって切島くんと大人しい子が組んだら地獄だよ。二人とも人見知りで何も話さない。今日の会の意味なし」
「この会に意味なんてねーだろ」
「意味のないものに意味を持たせたいと思って幹事を引き受けたんだよ」

 意味深なセリフを言いやがった名前は、機嫌がよさそうである。

「みんな解散後はそれぞれデートしてるみたいだし、何より」
「………」
「わたし、将来結婚相談所にでも就職しようかな。ツヴァイとかペアーズとか。カップル作るの楽しそう」
「何言ってんだ」

 味をしめすぎだろ。そう思い突っ込むと、名前は楽しそうに笑う。

「瀬呂くんチームも復縁しそうだし」
「あ?」
「あの二人入学当初は付き合ってたんだよ。知ってた?」
「興味ねえ」
「一緒に帰ってるところ何回か見たんだよね。だけど夏休み後くらいから気まずそうにしてたから何かあったのかなって思って」
「………」

 相変わらず他人のことに関して鋭い女である。

「全員お前のツレか?」
「そうそう。全員友達。いいこだし可愛かったでしょ。誰が好みだった?」

 名前は楽しそうに呟く。俺はその問いに、他意があるのか邪推する。だが、他意はなさそうだ。この女は本気で、自分の彼氏に“自分の友達の中で誰が好みだったのか”を聞いているのだ。ありえねえ。

「………馬鹿にしてんのか?」
「してないよ。わたしよりみんな可愛いしいいこだから。将来有望だし」

 自己評価が低い点は相変わらずらしい。腹立たしいことこの上ない。俺は言おうか数秒迷ったが、言わない方がむしゃくしゃすると思ったので言いたくもない言葉を口に出す。

「名前」
「え」

 くだらないわかりきっている質問に答えると、名前は目を見開いた。

「もう言わねえ」
「え、えー!言ってよ!」
「言わねーよ馬鹿か」
「えー……」

 不満そうな口ぶりだが、表情は嬉しそうなこの女を見ていると、何とも言えない気分になる。時間を確認する。まだ解散するには早い。今日は両親は自宅にいるのだろうか。

「……行くぞ」
「どこに?コソ練?」
「しても意味ねえことが分かったから二度としねーわ」
「意味がないことはなかった。コソ練しなかったらたぶん全部ガーターだった」

 俺の家に行くぞと言ったら、この女はどんな顔をするのだろうか。寮生活で不便だと思う時はこんな時だ。寮にこの女を連れ込むわけにもいかない。

「家」
「え」
「俺の家」

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「お!爆豪帰ってきた!」
「今日はありがとな!すげー楽しかった!」
「俺も、行ってマジでよかったと思ってる。彼女にもお礼言っといてくれ」

 寮へ戻ると、今日のメンバーが集結していた。口々に礼を言われるが、そこまでこいつらは生活に娯楽がないのだろうか。

「あの後ダーツしたんだけどさーマジで盛り上がってさー」
「俺はスポーツ用品店でトレーニング用品見に行った!燃えたぜ!」
「俺はスタバでお茶したよ。お互いのことが知れてよかった」

 聞いてもいないのにその後の話を嬉々としてしてくるこいつらは、口々に盛り上がったと呟いている。

「しっかし名前ちゃんマジでいい子だな!よく気が付くし!」
「話しやすくていい子だよな」
「経営科でも狙ってるやついるんじゃねーの?」 

 アホ面の言葉に、俺はこめかみがひくつくのを感じた。畳みかけるようにしょうゆ顔が呟く。

「爆豪は?彼女とどこ行ったんだよ」
「家」
「は」
「え、お、お前、家って」
「マジかよ!!俺も彼女欲しい!!」

 家というだけで下世話な想像をするやつらを鼻で笑いながら、俺は自室へ向かう。家に行ったが両親がいたので大したことはしてねえ。だが別に嘘を言っているわけではない。

 今日の会は、マジで俺にとっては意味のないものであった。だが、まあ、学校でも俺のクラスメイトにも俺の両親にも、とりあえずこの女が好かれているということはわかった。まあ、それは、悪くない。自分のものが奪われるのなら話は別だが、自分のものが自分の周りに好かれているのは、まあ、悪くない。

(170625)