「わ、悪い………俺、マジで才能ねえわ……」

 爆豪は才能マン、上鳴はチャラい、瀬呂は器用。ボーリングの腕もいいはずだ。男の中でワーストワンの腕であるということは、一投目で思い知ってしまった。

「大丈夫だって!わたしが取り返すから!」

 漢気が溢れすぎている俺のペアの女子は、ボーリングに自信があるようだ。爆豪の彼女が俺たちのやり取りを見て、口を開く。

「名前ちゃんは週5でボーリングやってるから、超上手だから大丈夫だよ」
「週5ではやってないって!本当に適当だよねー」

 このメンバーの中で一番派手そうに見えるその女子は、歯を見せて笑う。その笑い方は、屈託がなくていいなと思った。

「マジで足引っ張って申し訳ねえ……えーっと、」
「名前でいいよ」
「………名前」
「うん。切島」

 女子を名前で呼び捨てにするのは、いつぶりだろうか。彼女は俺の照れた様子を見て、笑った。

「シャイなんだねー、意外」
「意外?」
「体育祭の時とかさあ、すごく熱血っぽかったから。そんなことないと思ってた」
「いやなんっつーか……。俺、こういうの慣れてねえし、」
「こういうの?」
「女子とペアでボーリングするのも初めてだし……って言い訳は漢らしくねえ!全力でやってやる!」
「その全力が問題だから。加減しなよ」
「………」

 俺がボーリングを苦手とするのは、全力で投げすぎるからである。どうしても力いっぱい投げてしまうので、いいスコアに恵まれない。その結果、ペアに迷惑をかけてしまう。俺一人ならともかく、目の前で楽しそうに笑うこの子に迷惑をかけるのは………だめだ。漢らしくねえ。

「だけどパワーはすごいよ。音もすごいし。切島みたいに投げられたら、気持ちいいんだろうなって思う」
「え」
「個性、硬くなるんだよね?ちょっと手とかやってみて」

 リクエストに応じ、掌を硬化させる。

「すごい!触っていい?」
「ああ、いいぜ!」
「硬っ!すごいねー!強そう」
「ま、マジで?」
「うん。ヒーローって感じ」

 思えば女子に褒められたのはいつぶりだろう。強そうだとか、ヒーローって感じだとか、そのようなことを言われて、喜ばない男はヒーロー科にはいないだろう。思わず個性をとくと、名前は驚いたように笑った。

「柔らかくなった」

 名前の表情に、心臓が音を立てた、気がした。

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「最下位チームはジュースを奢るということで」
「………」

 爆豪の彼女の一言に、俺は何も言えなかった。ボーリングに罰ゲームはつきものである。俺は財布を出す名前を制する。

「いい!俺が足を引っ張った!俺に出させてくれ!」
「えー!いいっていいって。だってチームじゃん!」
「だめだ!」

 俺のスコアは散々だった。力加減が苦手なのだ。テクニックもない。女子の中では一番上手い名前にサポートはしてもらったが、それでも最下位だ。俺は千円札を取り出し、自動販売機に突っ込む。

「みんな選べよ!」
「ご馳走様でーす」
「ありがとー」
「悪いな切島」

 俺達以外のメンバーは次々にボタンを押していく。

「えっ本当に返すって!」
「いやだめだ。つーか女子に金を出させるなんて漢らしくねえ」
「え」
「ボーリングではダメだったけど、これくらいかっこつけさせてくれ!」
「だめじゃないよ!」
「え」
「何ていうのかな……ボーリングに対しても熱くて、切島かっこよかったよ!」
「え」
「次のゲームでは1位目指そう!」

 名前はそう言って、ガッツポーズをする。確かボーリングは2ゲームやると言っていた。次は勝つというそのポジティブさに、俺は胸を撃ち抜かれた気がした。

「名前はジュース何にするんだ?」
「えっいいよいいよ!自分で払う!」
「いや女子に払わせるわけにはいかねえ!せめてもの詫びだ!」
「だけど……」

 謙虚だ。折れない。見た目は派手なのに、ギャップがすごい。そう思っていると、爆豪の彼女が呟いた。

「名前ちゃん奢ってもらいなよー切島くんを立てるつもりで」
「えっ」
「あ!アイスある!ねえねえ、爆豪くんアイスあるよ」
「買わねーからな!!」

 この二人はすげーな。そう思っていると、名前は呟く。

「じゃあ、オレンジジュース」
「お、おう」
「ありがとう、切島」

 たかがジュースだ。それなのに、俺から受け取ったオレンジジュースを、大切そうに抱えるこの女の子は、破壊的に可愛い。俺はこの会が終わるまでに、胸を撃ち抜かれ過ぎてハチの巣になるのではないか。そう馬鹿なことを思いながら、コーラのボタンを押した。

(170625)