「爆豪くん!名前ちゃん!無事だったんだな!よかった!」 「当たり前だろ分かりきったこと言ってんじゃねーよ!つーかお前がしっかりしてねえからこいつが死にそうになってんだよ!詫びろ!今すぐに!」 「す、すまない名前ちゃん」 「えっいいよいいよ!確かに飯田があからさまに敵を挑発し始めた時は死を覚悟したけど」 「それは窓の外に爆豪くんの姿が見えたからであって……君はすごい目をしていたぞ!あのままだと敵を殺すのではないかと思い咄嗟に」 「殺さねーわ!」 「爆豪くんなら名前ちゃんを救うと信じて挑発をしてしまった。怖い思いをさせてすまない」 「謝らないで!大丈夫大丈夫!」 「だけどナイスなタイミングだったな、さすが爆豪くん」 「あ?」 「確かに!偶然にもあのタイミングで勝己くんが現れなかったらわたし」 「あー」 プロヒーローはだるそうにつぶやく。 「お前の脈に異常が出たらわかるようになってんだよ」 「え」 「は」 「異常が出たからGPS使った。仕事も片付いたところだったしな」 「……」 普段の名字名前ならば、勝手に自分に何か細工をされていたら怒るはずだ。だが、今回はそのおかげで彼に助けられている。文句を言いたいところであるが言えるはずもない。 「ちなみに盗聴器がついてたりは」 「あ?さすがにそれはお前キレるだろーが」 「………」 その通りだと名字名前は思った。さすがに命を救われていたとしても、盗聴器はプライバシーの侵害だと抗議するだろう。付き合いが長いだけあり、自分の怒るポイントを抑えている過保護な恋人に、名字名前はさすがだと思った。さすが才能マン。彼女に対しても。 「帰るぞ」 「……うん」 飯田天哉とともに事情聴取を受けた名字名前は、私服で警察まで迎えに来た恋人に手を引かれる。 「飯田、助けてくれてありがとう」 「いや!俺が不甲斐ないばかりに危険な目に……」 「助けてくれたじゃん。大丈夫だよ。ありがとう」 「……ああ」 「またごはん行こうね」 名字名前は手を振り、爆豪勝己の車に乗り込む。飯田天哉は幼馴染の大丈夫という言葉に安堵した後、漸く自分のスーツの脹脛が酷いことになっている状況に気付いたのであった。 ; 「全然大丈夫じゃねーだろーが」 「………」 自宅に着くなり、自分にしがみついて離れない恋人を見て爆豪勝己は呆れたようにつぶやく。 「怖かった」 「………そうだな」 「死ぬかと思った」 「生きてんだろ」 「わたしが」 名字名前は、小さく小さくつぶやいた。耳を澄まさないと聞こえない声で。 「わたしが無個性じゃなかったらって、思った」 「………」 また始まったと、爆豪勝己は思った。いつもの無個性によるコンプレックスを吐き出す会である。普段ならば怒鳴りつけて「どうでもいい」というところであったが、そうはいかない。今回はそのせいで彼女は命を失いかけているのだ。ここで突き放したら、きっとこの女は自分を拒むだろうと爆豪勝己は思った。そしてこれから先の人生、この女は一生無個性コンプレックスに呪われ続けるのだと。 「名前」 「……うん」 「お前が無個性でも個性があっても俺のモンだ」 「………うん」 「だから守ってやる。お前がどれだけ尽くさない女でもな」 「………うん」 こんな時ですら、好きだとか、愛してるだとか、甘ったるい言葉を口にできない自分自身に、爆豪勝己は舌打ちをする。陳腐な言葉は思い浮かぶ。だが、どうしても口に出せない。名字名前の背中を撫で、呟いた。 「……あのクソ敵にどこ触られた」 「………腕しか触られてない。舐めるように見られたような気はするけど」 「風呂行くぞ」 「え」 「消毒だ」 「ちょ、ちょっと待って、い、一緒に入るの?!」 「今更興奮しねーわ。ガキかよ」 「いつもそう言うけど!お風呂で結局、」 「うるせえ」 「ん……っ、」 名字名前との付き合いは長い。この女は、きっと今日は恐怖で眠れないだろうと爆豪勝己は予想した。後は恋人が敵に狙われた危機感と、それを救った安堵と、仕事の疲れやら諸々を発散したい気持ちもある。バスルームに恋人を押し込み、消毒だと言ってとりあえず抱くつもりだった。興奮しないという言葉は勿論詭弁である。その後はとりあえず寝室で抱きつぶすつもりであった。彼女も気絶すれば眠れるだろうし、こちらも気が済む。WIN-WINじゃねーかと思いながら、爆豪勝己は暴れる恋人のホックを外した。 (170624) |