「この世の人口の約8割強が個性を有している。個性に優劣をつけるのはナンセンスだ。誰もが素晴らしい個性を持っている。微弱なもの、強力なもの。些細なもの、大袈裟なもの。差異はあるが、どれも自分自身が持つ、自分だけの“個性”だ。私の個性?それは今は割愛しよう。大したことのない個性だ。ヒーローになるにはインパクトにもパンチにも欠ける個性だ。だが、私は自分自身の個性を気に入っている。天から授かった個性だからね」

「私の個性はどうでもいい。問題は、人口の二割弱の人種だ。ここまで科学が発展しているのにも関わらず、ここまで誰かが齎した個性で経済が急速に成長しているにも関わらず、二割弱も“それ”がいる。私はそれが我慢ならない。誰もが自分の個性に誇りを持ち、自分の個性を生活に役立てている。ヒーローが代表的な例だ。ヒーローだけじゃない。ここまで急速に世界経済が発展したのは、科学が発展したのは、生活がより豊かになったのは、誰かが齎した“個性”のおかげだ。だが二割弱の“それら”はどうだ?」

「“それら”は何の役に立つ?ただ我々と同じ地面に立ち、食料を食い潰し、二酸化炭素を吐き出すだけの“それら”は何の役に立つというのだろうか。植物と違い、ただのうのうと呼吸をし、酸素を生み出すことすらできない“それら”は、立派な害悪だと思わないか?」

「確かに“それら”はどんどん減少している。だが、ゼロにはならない。それはやはり遺伝的な要素が大きいのだろう。私はそれが我慢ならない」

「昔の話をしよう。かつて、ネアンデルタール人というヒト属の種が存在した。とっくの昔に絶滅した種だ。その絶滅した理由ははっきりしていないが、こういった説がある。ネアンデルタール人は、より優れた種との生存競争に敗れて絶滅したという説だ。即ち、古い種は新しい種によって滅ぼされなければならない。今を生きる我々のためにも、古い“それら”は滅ぶべきだ。よりよい未来のために、我々は進化をし続けなければならない」

「私は君のような“それ”を、酷く憎んでいるんだ。だから私を憎まないでほしい。憎むなら、君に個性を与えなかった神を憎んでくれ。君が悪いわけじゃない。君には何も問題はない。ただ、君が――、」

「君が無個性だから、私は―――、」

「ジギタリスは、無個性を狩り尽さないといけないんだ」

(170619)