「………あ?」
「………えっ、ば、爆豪くん?」
「………何か貧相になったな」
「………え?」

 爆豪くんの寮の部屋でまったりしていると、急に白い煙に包まれた。軽くせき込みながら目を開けると、そこには見知ったような顔がわたしを見つめていた。

「………はっ!もしかしたら敵の個性!」
「敵?」
「確か10年後の自分と入れ替わるとかなんとか……」
「あー、ンなこともあったな」

 昨日のことを思い出す。コンビニまで歩いていたら、敵に遭遇したのだ。その敵の個性は確か、“ビームをあびた人間は10年後の自分と10分間入れ替わる”という何ともよくわからないものであった。即効性のある個性のようであったが、わたしは直接的にはそのビームに当たらなかったし大丈夫だと思っていたが違うらしい。ガラスに反射したそのビームをあびると、効果は遅く出るのか。そう分析しながら、目の前の男の人を見つめる。

「………爆豪、くん?26歳?」
「………悪いかよ」

 わたしをじっと見つめている瞳の色も、髪の毛の色も。紛れもない彼だ。わたしは目を瞬かせる。いつも隣にいる爆豪くんよりも成長しきっているその人は、知らない人のようだった。

「………」
「目逸らすな馬鹿」
「………うっ」
「逃げんじゃねーよ」

 目を逸らし、腰を上げると腰に手を回され、顎を固定された。なぜかわたしは10年後の爆豪くんの膝の上に座っている。入れ替わった瞬間からこうなのだから、10年後のわたしはこうして爆豪くんといちゃいちゃしていたのだろうか。逸らそうにも彼の視線が強すぎて逸らせない。怯えきっているわたしを、10年後の爆豪くんは面白そうに眺めている。

「こ、個性は」
「あ?」
「一応ダメ元で聞いてみるけど、10年後のわたしは、個性が発現してたり、」
「してねーよ」
「………やっぱり……」
「まだンなこと気にしてんのか。どうでもいいだろ」
「よ、よくないよ!」
「あ?」
「爆豪くんにはわからないかもしれないけど!だけど‥……っ、ん‥……っ、」

 信じられない。この人、わたしが一生懸命話しているのにキスをしてきた。わたしは思わず目を閉じるのも忘れて目を見開く。というか、爆豪くんとはお付き合いをしているけれど、だけど、目の前の人は10年後の爆豪くんで、顔つきも体つきも今よりもがっしりしてるし、知らない人みたいで、その、

 わたしは心の中で誰かに言い訳をしながらも、深くなるキスに身を震わせる。爆豪くんと、キスはしたことがある。だけど、違う。こんなに、溶けそうに、ならない。

「ぁ………っ、」
「へたくそ」
「ひ、ひどい‥……っ、」

 唇を離した後、10年後の爆豪くんは楽しそうに笑った。そしてぐったりとしているわたしの耳元で、呟く。

「今更お前の個性なんてどうでもいいわ」
「………っ、」
「あってもなくても、どうせ俺の物だろ」
「………っ、え、」

 顔を上げる。彼の表情を見ることなく、唇に吸い付かれる。そのまま爆豪くんは、わたしのブラウスに手を伸ばした。

「ま‥…っ、んっ、待って、ちょっと……っ、」
「もう10年前の俺とはやることやってんだろーが」
「え!?な、なに言って、」
「貧相だけど悪くねえな」
「ま、まって……っ、だ、だめ……っ、」

 ボタンを二つ外される。爆豪くんの手が、背中を這う。ホックを外されそうになった、その時だった。白い煙と、大きな音に包まれたのは。

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「………」
「あのさあ、勝己くん」
「………」
「15歳のわたしに何してたの?」
「別に何もしてねーよ」
「………」

 わたしの背中を這っているこの手は何だというのか。入れ替わる前のわたしにも同じことをしていたのだろう。わたしはため息を吐き、呟く。

「10年前の勝己くんは可愛かったのに!」
「あ?可愛くはねーだろ」
「可愛かったよ、なんだか勢いも切れもあった。あの頃は若かったね」
「はァ?」
「10年前のわたしどうだった!?可愛かった!?」
「個性個性うるさかったわ」
「あー拗らせてたからね。ごめんね面倒で」
「別に今もだろーが」
「ひどい!面倒って言った!?そこは否定するところで‥……っ、んっ、」

(170423)