「………」
「あれっ………勝己くん?」

 白い煙の中から現れたのは、少々老けた見知った顔である。

「………老けてねえか」
「いや勝己くんこそ幼く………ってああ!これ!あの日か!」
「は?」
「10年前のことを覚えてるなんてさすがわたし」
「どういうことだよ!!!聞けよ人の話!!」
「短気だねえ若いねえ」
「ぶっ殺すぞ!!!!」

 少々老けた名字名前は、俺の扱いに慣れているらしい。優位に立たれているようで腹が立つが、さっぱり状況が分からない。

「わたし、10年後から来たの」
「は?」
「10年後の名字名前です。どうも」

 俺の部屋でへらりと笑う名字名前の顔を、凝視する。確かにいつものあの女より大人びている。服装だって違うし、髪型も違う。

「………何で10年後のお前が」
「実は昨日、10年前のわたしは敵の襲撃にあいまして」
「はァ!?聞いてねーぞ!!」
「言ってなかったんだっけ?覚えてないなあ」
「オイ!」
「その敵の個性がビームでね、確か」
「ビーム?」
「そう。そのビームをあびると、10年後の自分と10分?15分?間だけ入れ替わるっていう厄介な」
「………お前はあびたのかよ」
「直接的にはあびなかったんだよね、確か。ガラスに反射してあびたような気がする。だから即効性がなかった」
「………遅れて効果が出たってことかよ」
「うん。だから今更、勝己くんとのデート中に個性が作用してわたしが現れちゃったんだね」
「………んな都合のいい話があるか!」
「そう言われてもわたし、25歳だしなあ」
「………」

 都合がよすぎる。そもそも敵の襲撃をうけたなんて聞いてない。言えよ馬鹿。舌打ちをすると、10年後だという名字名前は俺の顔を凝視している。

「幼くて可愛い」
「はァ!?ぶっ殺すぞ!」
「勢いがあるねー!懐かしいなあ」
「はァ!?」
「ねえねえ、今のわたしとどこまで行った?キスはした!?」
「言うわけねーだろぶっ殺すぞ!」
「いいじゃんわたしなんだから。教えてよー」

 その女はぐいぐいと近づいてくる。現在の名前よりも、だいぶ押しが強い。ついにはベッドに押し倒された。どかそうと肩を押すが、その女は全く動じない。俺の様子を見て楽しそうに笑い、呟いた。

「今のわたし、めんどくさいでしょ」
「………はァ!?」
「個性のことを気にして、たぶんものすごーーーくめんどくさい女だと思うけど」
「………」
「だけど嫌わないでね。ずっと一緒にいてあげてね」

 酷く重たい言葉を唇に乗せながら、その女は目を細めて笑う。

「………お前は俺の物だからな」 
「それ今のわたしに言ってあげなよ、喜ぶから」
「言わねーよ!!」
「10年前の勝己くんは切れがあるなあ。懐かしい」
「………10年後の俺はどうなんだよ」

 俺の言葉に、名前は愛おしそうに目を細めて呟いた。

「ないしょ」
「はァ!?」
「10年経てばわかるよ」
「長すぎるだろ!待てるか!」
「それが待てるんだなあ」
「その悟ったような口ぶりやめろ!!!」
「えー」

 10年後の名前は、俺の頬に唇を寄せる。リップ音を立てて口づけた後、呟いた。

「ファーストキスがまだだったら悪いから、ほっぺにしてみた」
「まだじゃねーよ!!終ってるわ!!」
「そうなの!?遠慮したのに!」
「してんじゃねーよ!」
「じゃあもう一回しようかね」
「だからその口調やめろ!!!!」

 彼女の唇が近づいた、その瞬間だった。白い煙と派手な音が聞こえ、いつも通りの見慣れた姿が現れる。

「………ば、爆豪くん」
「………は、」

 見慣れた姿のはずのその女は、酷く頬を赤く染めている。更には着衣が乱れている。オレは思わず、口を開いた。

「………何があった」
「え、えーっと、その、」
「10年後の俺に何されたかって聞いてんだよ!!!!」
「い、言えない……」
「はァ!?言えないってどういうことだ!!!」
「それより10年後のわたし、どうだった!?」
「それよりじゃねーよ!そもそも敵に襲われた話も聞いてねえ!!」
「襲われたというか若干巻き込まれただけだったし怪我もなかったし」
「お前は俺の物だろーが!!逐一報告しろ!!」
「えっ」
「あ?」
「……何でもない。ね、10年後のわたしどうだった?奇麗だった!?」
「老けてた」
「え!?あ、アンチエイジング頑張らなきゃ……今から……」

(170423)