・私と俺との日常番外編
(仔牛との出逢い)
―私と貴方と迷子の子供―
「うわわわわーーーんッ!!!」
(これを私にどうしろと…)
今私の目の前で号泣している子供を私は知っている。
いや、直接の面識は無い。
けれどこの特徴的な牛柄少年は間違いなくあの子だ…。
(…………ランボ、だよね…)
「うわーーーーーんッ!!!!」
未だ泣き止ま無いこのランボ(仮)。
耳をつんざく様な泣き声に小さく溜息を吐いた私は何の因果か、先程気付いたポケットに入っているものを手にランボ(仮)へと近付いた。
「はい」
「うわーーー……ん?」
「あげるよ」
「ぶどう味の飴さんだもんね!」
さっきまで泣いていた子供は何処に行った。
と突っ込みたくなる程の切り替えの早さで、私の差し出した飴に食らい付くランボ(仮)。
若干引きつつその様子を見ていれば、ランボ(仮)はキラキラと瞳を輝かせ私をじっと見てきた。
「……………………何?」
「おまえ いいヤツだもんね!
ランボさん おまえと遊んでやるんだもんね!!」
(心底遠慮したい…)
ランボはどうやら飴により私を気に入ったようだ。
(なんて安いヤツ…)
そしてそのランボが飴のお礼(?)として提案してきた遊んであげる、という行為を私は全力で回避したい。
(だってこの子と遊べば銃弾やら手榴弾やらバズーカが飛んでくる…………。
うん、危険だ)
「ねぇねぇ!
早くするんだもんね!」
(はぁー…)
我が儘仔牛はどうやら我慢性が無いようだ。
まぁ、5歳児にそれを求めるのも微妙だが…。
(いや、5歳にもなったんだからこそ、ちゃんと躾なければ将来ダメな大人…「ムッキーーッ!早くするってランボさん言ってるんだもんね!!」…………ハァ)
騒ぎだすランボに仕方が無い、と諦めた私は溜息一つを心中で吐き出し彼をヒョイっと抱き上げた。
それに 疑問符を浮かべるランボを持ったまま、私が向かったのは並盛中の屋上。
快晴の空の下、ぽかぽかした陽気が眠気を呼ぶ。
(うん。丁度良い)
「ねぇねぇ、ここで何するんだもんね?」
「うん? あぁ、最高にカッコイイランボ君に私のまだ誰にも聴いて貰ったことの無い、秘密の唄を聴いて貰おうと思って」
「カッコイイ! ヒミツ!?」
キラキラと輝く瞳。
カッコイイとか、秘密とかこういう自我の強い子供の好きそうな言葉を選んでわざと言えば簡単に乗ってくれた。
(…扱い易くていいね)
本当は絡まれないのが一番だけど…。
「ガハハ!
仕方ないもんね!カッコイイランボさんが聴いてあげるんだもんね!」
(うん。本当に扱い易い)
上機嫌で笑う子供に少々呆れながらも、微笑ましく思った私の頬は自然と緩んだ。
そしてそのまま、私はスゥ…と息を吸い込み、哀しい唄を紡ぐ。
悲劇の歌にして 絆の謡。
証の詩にして 異界の唄。
過酷な運命を背負った白い少年の、哀しい 悲しい子守唄。
―私と貴方と迷子の子供―
この唄を知る者はこの世界には居ない。
それもまた、私にとっての悲劇。
けれど今、こうして私の膝の上で穏やかに眠る少年を見てみれば、そんな思いは直ぐに消え去っていった。
※ランボの口調が分からない!
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