彼女と僕と白の兄


・私と俺との日常番外編
(願うのはただ、)


―彼女と僕と白の兄―




「“僕達”の可愛い妹を虐めるのは止めてくれない」

「びゃ、…く……」

「辛いなら話さなくていいよ蓮ちゃん。
14年分の記憶を一気に思い出すのは辛いでしょ」



「綱吉君に会いたい」と告げた直後、いきなり頭を抱え苦しみ出した彼女の身体を突如乱入して来た白皙の青年が支える。
神城蓮に安心させるよう微笑みかけるその男の顔を、僕は彼女の記憶から知っていた。

白蘭

10年後の世界で、僕の敵となる男。



「びゃく……わた…、つな…し…く、ん………わすれ……っ!」

「大丈夫、大丈夫だよ蓮ちゃん」



傍目からでも分かる優しい手つきで彼女の頭を撫でる白蘭は繰り返し彼女に大丈夫だと告げる。
慈愛に満ちたその表情は僕の知り得た彼とは結び付かないものだった。
まるで別人。
否、恐らく彼が…



「貴方が彼女の兄の、白蘭ですか」



彼は僕の問いに何も答えずに、彼女に向けていたものとは異なる食えない笑みだけで僕に応えた。



「クフフ、まさか貴方までもが此方に来るなんて保護者風にでも吹かれましたか?白蘭」

「保護者風も何も僕は最初からこの子のお兄ちゃんで保護者だよ」

「つくづく忌々しい男ですね」

「アララ、僕まだ骸君に嫌われるような事した覚えないんだけどなぁ」

「世迷い言を」



吐き捨てた僕に、白蘭は戯ける様に肩を竦めた。
飄々とした態度が癪に触る。



「まぁ僕は君に嫌われても何とも思わないからいいんだけどね。
けど、蓮ちゃんに手を出すっていうなら話は別だよ」

「貴方がその小娘を連れてこの世界から退場してくれるというのであれば僕も関与しませんよ」

「それは出来ないな。
蓮ちゃんが綱吉クンに会いたいって思ってる限り、僕は蓮ちゃんの願いを叶えてあげるつもりだからね」

「理解に苦しみますね。
沢田綱吉はマフィアですよ。
彼女の様に平和にどっぷり浸かっていた人間が傍に居て幸せになれる様な男ではありません」

「それを決めるのは綱吉クンと蓮ちゃんだ。君じゃないよ」

「貴方は…」

「わ、たし…は……」



僕の声を遮って、息も絶え絶えと言った様子の神城蓮が声を上げる。
脂汗の浮かぶ真っ青な顔が縋っていた白蘭から僕に向いた。



「わた、しは…つな……君の、傍…いたい…。
…こんど、は……逃げ…な…で、ちゃん……と…向き、あって……。
…つなよ…く、んと……いっ…しょに……居たいっ!」



幾重もの涙が彼女の頬を濡らした。
とんだ悲劇、否、滑稽劇だと僕は嗤う。
声無く口元に浮かんだそれに、白蘭からの咎める様な鋭い視線が僕を射抜いた。
騎士(ナイト)気取りとは、彼に似合わないそれに益々嗤ってしまう。



「貴女の思い等どうでもいい。
どうあっても貴女は僕にとって嫌悪の対象でしかないんですから。
しかし貴女を排除しようにもそこの男が抵抗するのは目に見えていますからね、貴女に猶予を与えてあげましょう」

「ちょっと骸君」

「ゆ…よ…」

「ええ。人間、口ではなんとでも言えるものです。
貴女の思いが本物で、貴女の決意が確かなものだと言うのなら、これから10年、ボンゴレの誰にも見付からずに24歳の綱吉君が死ぬ日まで一人でマフィアの中で生き抜いてごらんなさい。
それが出来、かつそれでもまだ綱吉君も貴女もお互い想い合っていられたならば僕はもう貴女の邪魔はしないと約束しましょう」

「勝手な事言わないでくれる?
君にそんな事言う権利はないで…「分…かっ、た…」蓮ちゃん!?」

「その条件を、守れ…ば…ほん…とに、……」

「ええ。貴女達の邪魔は一切致しません」

「蓮ちゃんこんな条件呑む必要なんてないんだよ。
それに君がマフィアの中で生きていくなんて…」

「でも…、何れ、綱吉…く…は………そこに立…つ…。
…なら…私、も、……つな…しくん…の隣にた…てるよ…になりたい…」

「甘い考えですね」

「六道骸」



嘲笑した僕に白蘭が殺気立つ。
分かりませんね白蘭。
何故、貴方程の男がこんな無力で甘い考え持ちの小娘にそんなに拘るのか。



「そ、れに…みと…めても、ら…いたい…。
…あな…た、も……つな…し君の……仲…間、だか、ら……」



苦痛に歪んだ顔で、しかしそう微笑んだ彼女に言い知れぬ何かが僕の内を走った。
本能が咄嗟に警告する。
拙い、と。



「そうですか、では貴女が何処まで足掻けるのか精々愉しみにしていますよ」



彼女の笑みを直視してはいけない。
そう判断した僕は白蘭達に背を向けてそう告げる。
やはり神城蓮がこの世界に関与するのは厄介だが、白蘭がいる手前これ以上を望むのは得策ではない。
何せ本体の無い僕と白蘭が勝負した所で勝敗は見えきっている。
しかし妥協点としては十分だ。
彼女にあの条件で生き残れる術など存在しない。
裏の世界はそんなに甘い場所ではない。




(クフフ貴女の足掻き、苦しむ所を高見の見物とさせて貰いましょうか)




心中で嗤い、潮時だろうと精神世界を後にする。
世界が蜃気楼の様に歪む中、ありがとう、と彼女の声が聞こえた気がした。












ー彼女と僕と白の兄ー



「あんな約束して…」

「大丈夫、だよ」



心配だと分かる声色、それに反する様に意思の籠った彼女の声とその決意の堅さを僕が知るのはこれから10年後の事…。



















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