私と彼とコイネガイ


「君は愚かですね」

「第一声に次いでそれか」

「わざわざ君にとって“創りもの”の世界にやってくるだなんて、莫迦だとしか言いようがありません」

「“此処で”“生きてる”アンタがソレを言うんだ」

「クフフ、……不愉快です」



侮蔑を孕んだ冷たい瞳が私を映した。
吐き捨てるような声に一切の温かみはない。



「何故君がここに来たのか等全く興味はありません。
ですが君の存在は邪魔でしかない」

「だから?」

「お帰り願いましょうか」

「残念でした。生憎白蘭に説明もなしにいきなりここに送られたからね、帰り方なんて知らないよ」

「帰れますよ」



君が、“帰る”事を望めば。

貼付けられた笑みに背筋が凍った。



「知っていますか?
精神とはあらゆる世界に繋がっているんですよ。
物質的な束縛によって世界に拘束される肉体とは異なり、精神は極めて自由ですからね。
だからこそ、他者の世界―他人の精神世界―に入り込む事も可能です。
その他者も同じ世界に限定されません。
白蘭がパラレルワールドを見聞きできるのもその為です。
普通の人間にそれが出来ないのはそれまでの生活環境や常識によって縛られているからです。
また、表面的には精神の自由を信じていても深層で少しでも疑っていれば同じ事。

“異世界なんてある筈がない”
“あったとしても行ける筈がない”
“未来の技術なら可能でも、少なくとも今は不可能だ”

一般人のこうした“常識”は枷となる。
ですが世界を移る為の精神はあらゆる束縛のない完全な“自由”でなければなりません」

「ちょっと待って!
それだと白蘭はそれを完全に信じてるって事?
“僕は世界になんて縛られない!”みたな…」

「そうですが…」



なにを今更…。
怪訝且つ、焦慮且つ、不審を露にした六道の表情なんて気にしてられない。
六道から齎された情報は私にとって晴天の霹靂と言っても過言でない程の衝撃を与えたのだ。
だってそういう事でしょ?
そりゃぁ、確かにちょっと変わってるというか不思議キャラを確立してるなぁ〜とは思っていたけどまさかそんな…。



「ビャク兄がそんな痛いキャラになっていたなんて…っ!」

下らない事で話の腰を折らないで貰えますか



悲鳴の様な私の嘆きは六道の神経を逆撫でしたようである。
浮かぶ青筋がはっきりとその存在を米神で主張していた。



「下らなくないよ!家族の事なんだよ!?」

「僕には関係ありません」

「情けは人の為ならず!!」

「貴女にかけた恩が巡って来ても迷惑なだけです」

「私どんだけけなされてるの!?」



ムカつく!



「はぁ…全く、こんな下らない事で僕の貴重な時間を無駄にしないで貰えますか。
迷惑極まりない」

「……貴方、人の神経逆撫でする天才だね、尊敬するわ」

「貴女なんかに尊敬されても虫酸が走るだけですね」

「………アンタが私を極度に嫌ってるってのは分かったよ」

「おや、今頃気付いたのですか?
随分と出来の悪い頭をお持ちのようだ。
ですが気付けただけ少しは賢くなったという事でしょうか」

「………」




冷笑を浮かべる南国果実(こんな奴南国果実で十分だ)に殺意が湧く。
日本の諺に仏の顔も三度まで、とあるけど、コイツに対しては三度じゃ足りない。
絶対足りない。



「…私は帰らないよ。
だって私はまだ、分かってないから」

「何を言っているのか分かりませんね」

「分からなくていいよ。
貴方には関係ない」

「貴女が此処に居る時点で僕は無関係とは言えません」



「不本意ながら」そう付け加えた南国果実は本当に、実に、これ以上ないぐらい腹が立つ。
けど……



「六道骸、アンタが何と言っても変えないよ。
私は、“綱吉君に会いたい”……え…?」



沢田綱吉に会う。
そう言う筈だったのに私の口から漏れたのは涙に濡れた、切願だった。










ー私と彼とコイネガイー



意図せずして溢れた願いは濁流となって私を襲った。
過るもう一つの14年の生の中、最も鮮明に、最も鮮やかに、最も愛しく私を満たした記憶には全て……



      つなよ し くん





“私の知った”、彼が居た。












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