パラパラと眺めもせず無意味に捲るマンガには、私と同い年の少年の姿が描かれている。
仲間と笑い、泣き、力を合わせて巨大な敵へと向かっていく…臆病で、けれどとても優しく、勇敢な少年。
――彼に会った事がある?
まさか!
百歩、否一千歩譲ってビャッ君がこの世界の住人で、ビャク兄がビャッ君と交信していたとして、私がこの世界に行っていたなんて全く身に覚えの無い事象を認めろと?
私はそこまで狂ってない。
(白蘭は元々どっかのネジが抜けてたので善しとする)
「大体胡散臭いよね」
私が異世界トリップしただなんて。
でも…
「何で、こんなに胸が痛いんだろう…」
視線の先には漆黒の棺。
彼の人の、眠る場所。
「な、んで…」
涙が、
「止まらないんだろう…」
「会いたいからだよ」
「!!?」
「綱吉クンにさ」
「っ! 不法侵入だよ!」
「アハハ、僕と蓮ちゃんの仲じゃない」
「親しき仲にも、でしょう」
拭ろうとした涙は先に白蘭に掬われる。
ポンポンと優しく撫でる彼の手に、再び涙が込み上げてきた。
「会いたい、んでしょう?」
「分からない…」
けど。
「一緒に居たい…
笑顔が見たい…
ずっとずっと…
ッ、…どうして!」
「好きだから」
え?とビャッ君を見上げれば、そこには優しい笑みがあった。
このマンガにある様な残酷な笑みじゃない。
優しくて、温かくて、安心出来る、大好きな笑顔。
「何で蓮ちゃんが綱吉クンの事を忘れちゃったのか僕には分からないけどさ。
誤摩化せないんだよ、心はさ」
「こ、ころ…?」
「そう。
蓮ちゃんが、綱吉クンを好きって気持ち」
トン、と白蘭の人差し指が私の胸を指差した。
ドクン、と鼓動が高まる。
「会いたい?綱吉クンに」
―私と俺と私の決断―
会いたい。
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