「あ、蓮ちゃん!
ひっさしぶり〜」
「白蘭…?」
「白蘭だけど、君にビャク兄って呼ばせようとしている方の白蘭じゃないよ〜」
「…………ビャッ君って呼ばせようとしてた方の白蘭?」
「せ〜か〜い!」
そう言って食べ掛けのマシュマロを私の口に放り込んできたニコニコと笑うこの白髪に殺意が芽生えましたよ、えぇ本当に…。
実の兄の様に育った私の従兄弟にあたる白蘭を、“兄”と呼べなくなった原因をやっと昨日知って、私は盛大に溜め息を吐きたくなった。
私は結構白蘭に懐いていた方だと自覚している。
面白いし、博識で頼りにもなるんだから当然だ。
けど、そんな慕う白蘭を“兄”と呼べない理由があった。
それがコレ。
“ビャク兄”と“ビャッ君”の呼び分け。
幼い頃からビャク兄と呼んでいたにもかかわらず、どういう訳か白蘭はある日を境にこの二つの呼称を何故か呼び分けさせようとしてきたのだ。
…意味が分からない。
それでも私も初めは健気に従っていたが、ある時はビャク兄、またある時はビャッ君と呼び分けるのにうんざりして、(実際同一人物なのに何故呼び分ける意味があるのか意味が分からなかった)白蘭と呼び捨てるようになった。
(因みにこの頃にはあの純粋に白蘭を慕っていた気持ちが廃れていたのは言うまでもない)
それでも未だに呼び分けを強要する白蘭に辟易していたのだが、まさかこんなからくりがあったとは…。
(白蘭が二人、存在していただなんて)
正確には“此方の世界”の白蘭は一人、そして“彼方の世界”の白蘭も一人。
ただ単に二人が時々お互いの世界を入れ替えていたというだけ。
……なんて面倒臭い事を…ッ!!
「…んで、ビャッ君はつまりこのリボーンとかいうマンガの世界の白蘭だって?」
「そうだよ〜」
「信じられると思う?」
「別に信じなくてもいいけどね。
僕にとってはどうでもいい事だし」
淡白だ。
自分の世界の事でしょ、少しは粘りなよ。
「まぁ初めは驚いたけどねぇ。
僕がマンガになってるだなんて!
しかも正義の味方に倒されちゃう悪役だなんて」
「…この“未来編”、まだ完結してないみたいだけど?」
「大体想像つくでしょ?
悪役なんてよっぽどの事がない限り負けるものだよ」
「まぁ…」
確かに。
頷いた私にビャッ君は盛大に溜め息を吐き出した。
「ねぇ〜蓮ちゃん綱吉クンと友達でしょ?
綱吉君説得してよ。
嫌だよ僕、負け戦なんかするの」
「イヤイヤイヤイヤ!!
どうして私が沢田綱吉と友達なのよ!?」
ビャッ君じゃあるまいし、どうやったら紙面上の人物と友達になれるのさ!
あ、でもビャッ君が存在しているという事は沢田綱吉も存在しているって事…?
何かややこしい…。
私がこの面倒臭い問題にうんうん唸っていると、ビャッ君はわざわざ見聞かせさせるかの様に溜め息を吐いた。
何だってんだ。
「ねぇ蓮ちゃん、本当に覚えてないの?
全部君が望んだ事なのに?」
「は?」
「いい事教えてあげるよ、綱吉クン君の事探してるよ」
必死に。
告げられて言葉の意味が分からない。
だた嫌に波打つ心臓の音が責め立てているかの様で…酷く、苦しくなった。
―私と貴方と紙面上―
また来るね。
そう言って緩く片手を振って消えたビャッ君に、胸の痛みは増していった。
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