君と俺と秘めた想い


・私と俺との日常番外編
(部下として、友として、)


―君と俺と秘めた想い―






「獄寺君…」




俺のその小さな呟きを聞き逃さず、彼は苦笑を滲ませて振り返った。




「ご安心下さい10代目。
神城にはちゃんと喝を入れたので」

「何で…」

「俺は貴方の右腕ですから」




ニッコリと微笑んだ隼人に俺は曖昧に笑う事しか出来ない。

蓮を元気付けてくれた感謝の想いと、俺が与える事の出来ない蓮の笑顔を戻してくれたのが隼人だという事実に苛立つ醜い嫉妬心…。

今の俺は何て滑稽な姿なのだろう?
ダメツナの仮面を常に被り、そうして巻き込まれないようにしていたマフィアの世界。
にも関わらず、結局蓮と離れることになってしまった…。
巻き込まれないようにしていた筈のマフィアの所為で…。

親父だか、T世だか、ボンゴレだか知らないが、俺は普通の日々が欲しい…。
人によっては何て退屈な日々だと嘆くのかもしれないが、俺にとっては掛け替えの無いものだ。

そしてその中には蓮も入っていたというのに…。




(マフィアのボスじゃなければ?
T世の血筋じゃなければ?
親父がマフィアじゃなければ?

それとも…

俺が存在しなければ?)
「蓮は今も…笑っていたのかな?」

「10代目?」

「いや、何でもないよ…」




ヘラッ、と笑えば隼人は怪訝そうに眉を寄せる。




「隠さないで下さい10代目。
俺はあの日、10代目に救われた日から10代目のお力になれるよう生きてきました。
まだ、10代目と過ごした日々は短いですが、それでも………」




不自然に言葉を切った隼人に俺は首を傾げる。




「それでも?」

「…………それでも、神城の傍にいらっしゃる時が、10代目は一番幸せそうでした」




「悔しいですがね」と苦笑する隼人に俺は否定しようと口を開くも、結局言葉は出ずに意味の無い空気が出入りするだけだった。




「俺や山本でもなく、リボーンさんや…、ましてや笹川でもない。
10代目が…、いえ、
“沢田 綱吉”が一番輝いていたのは紛れもなくアイツの隣です」

「獄、寺…君……」




驚いた。
隼人が今迄10代目だった俺を“沢田 綱吉”と言ったことも、隼人が“綱吉”として俺を見ていたことも…。

驚きを隠せ無いでいる俺に隼人は真剣な眼差しで俺を見てきた。




「10代目。
俺は貴方の右腕として、10代目が判断されたことには従います。
ですから今から言うことは右腕を志す、“10代目の部下”としての言葉では無く、“沢田 綱吉の友人”としての“獄寺 隼人”からの言葉です」




そういった隼人はまず 「すみませんっ!ご無礼をお許し下さい!!」といきなり頭を下げた後、ツカツカと俺に歩み寄り、俺の胸ぐらに掴みかかってきた。
その鋭い剣幕に、ダメツナの俺ならば怯えなければならないのだが、真剣な隼人の瞳に偽りの姿を映したくは無いと思った。




「逃げんじゃねーっ!!
守れねぇから何だ!
だったら守れるまで強くなればいいじゃねーかっ!!
1人にするのが不安なら、何時でも傍に居りゃいいじゃねぇか!
守りてーなら守りぬけ!
大事なら大事にしろよ!!
苦しむなら…、泣かすんじゃねーよッ!!」

「…」




真摯な隼人の口調は、普段10代目と敬う俺への敬語では無く、山本に使うような砕けたものだった。
それだけ今の彼の言葉は10代目じゃない、俺へと向けられたもの…。




(守りぬけ、大事にしろ、泣かすな、か…。
簡単に言ってくれるな…。


けど、)




スッ…、と胸元から手が離されたと同時に走りだす。
去りぎわに見た隼人の表情は穏やかだった。
それに感謝しつつ、俺は蓮を求めてがむしゃらに走る。
居場所なんて分からない、けど…。




(会いたいんだ!
話したいんだ!
傍に居たいんだ!

君の…)
「笑顔が見たいんだッ!!」




息苦しくなる中、走る速度を変えず直感に従い辿り着いたその場所は1人暮らしだという彼女のマンションの部屋。

高鳴る胸は歓喜からか、それとも………。
























―君と俺と秘めた想い―







辿り着いたその場所に、蓮も、蓮が使っているであろう家具も、何も存在していなかった…。





















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