「ねぇ、ツっ君。
蓮ちゃん、お料理喜んでくれるかしら?」
「蓮ちゃんが来てくれたから張り切っちゃったのよね〜」なんて間延びした声で訊いてきた母さんに、それはそれは美味そうに出来上がった料理を運ぶ手伝いをしていた俺が、思わず溜め息を吐きたくなったのは秘密だ。
あの後、俺の本性が神城にバレてる的なニュアンスで、ニヤリと挑発的に笑った自称家庭教師を問い詰める間も無く我が家へと帰宅した俺は、リボーンに押し切られる形でついて来た神城を見付けてキラキラと目を輝かせる我が母に頭が痛くなった。
(ちょっとは警戒とかして欲しいんだけどな…)
知らないとはいえ、マフィアな夫と同居人、そして時期ボスの息子が居るんだ。
誰でも親しげに話せる母さんはそこが良いところでもあるが、こうも無防備だとマフィアに関係無いとしてもいつか騙されるんじゃないかと心配する…。
…………事実、リボーンが家へ来た経緯や居着いたのも騙されたからだし…。
(普通、赤ん坊が家庭教師ってあり得ないよな?)
俺の突っ込み体質は母さんが原因だ、と何だか話がズレたが取り敢えず俺は料理を運びながら神城の腕の中でニヒルに笑うリボーンを、母さんにバレないように睨み付ける。
一方、神城は何だか明後日の方を向いて現実逃避をしている。
読心術が効かないから実際はどうか知らないが、その表情から察するに「何故…、自分がここに……」が今現在の神城の心情だろう…。
(あぁ…、コイツもこのリボーンと言うクソガキの被害者なんだ…)と思うと、神城を見る目にどうしても同情の色が浮かんでしまう…。
それに俺もあの日神城克服を決意した以上、こうやって神城と関わるチャンスが出来たのは良かったと思う。
(だからそのチャンスをくれたリボーンにちょっとは感謝す…「おいダメツナ。さっさとママンの飯持って来やがれ」…るもんかッ!!!)
全くもってコイツは俺の神経を逆撫でする天才だッ!!
神城も何となく俺の心情を察したのだろう…。
先程俺が神城に向けていたのと同じ視線が俺を貫く。
自分もやったこととはいえ、その視線を受けてみれば自分が本当に惨めに思えてくる…。
そんな俺、神城、リボーンが何とも言えない空気を醸し出す中、丁度いいタイミングで母さんがリボーンにビアンキ達を呼んでくるように頼む。
「了解したぞ」と返したリボーンは、神城の腕から抜け出し二階へと姿を消した。
残された俺と神城の間では気まずい空気が流れる…。
(アイツ逃げやがったなッ!!)
普段、俺が本性を現せないのをいいことに色々とこき使うリボーンが自ら去って行ったのがいい証拠だ!
去り際のあの企むようなニヤリとした笑みも、その考えを肯定させる。
(…たくっ…、どうしろって言うんだ…「沢田君」…?)
話し掛けてきた神城に内心首を傾げてそちらをみれば、苦笑を浮かべる神城がいた。
「沢田君…」
「大変だね、…本当に…」と、どこか遠い目をしながら労るように言う神城に「…お互い様、だろ?」と返すのが精一杯で、
まぁ、とにかく言えることは…
―君と俺と家庭訪問―
(リボーンが来てからやっと、俺の苦労を分かってくれるヤツに出逢えたよ…)
※文中のツナのヒロイン克服決意の経緯は番外編
【君と俺と俺の思い】の方をご覧下さい。
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