「今日は来てくれてありがとう!幹事のシオンでーす。今日は楽しもう!」
とリーダーっぽい奴が自己紹介する。
「へーえ!シオン君って珍しい名前だね!かっこいい!」
と頬を染めながらリカは笑う、そしてそのリカの頭をシオンが撫でる。
この開始30分でこの親密さには驚きだ。
「俺は順平っす。よろしくー。」
黄瀬風のしゃべり方をした男が自己紹介すると、視界に入った美月が黒い笑みを浮かべていたのは見なかったことにしよう。
「....蒼井颯太です。よろしく、お願いします。」
最後に自己紹介をした彼は先ほどから皆の輪には入ろうとせず、雰囲気もチャラチャラした感はなく、名前のまんま爽やか少年だ。
顔もイケメンで優しそう、そして黒髪で長身でパーフェクト、だ。
おそらくこういう所には慣れていないのか、顔が少し赤い。
こういうのが女心
をくすぐるのだよ、と思っていると美月と眼が合い、あいつは親指をこっそりと私に向けてきたので私も小さく親指を立てて向けた。
そして男の一人が歌を歌い始めると蒼井君以外の男が一斉に立ち、席を移動する。
ただし、シオンとやらに限ってはリカに腕をホールドされているみたいで、動けない状態らしい。
すぐ私の横に黄瀬風のしゃべり方をしたやつが座ってきたので、トイレに行き、帰ってきて出口に一番近い橋の方に座ろうと考えた。
立ちあがり部屋を出て、しばらく壁にもたれかかっているとコップを4つ持った蒼井君が登場だ。
「.....あ」
『二つ持つよ。ドリンクバー頼まれたんでしょ?』
「..ありがとう、」
そして二人で長い廊下を歩き、階段一つ下のドリンクバーに向かう。
その間ずーーーーーっと沈黙だった。
しかし、ドリンクを入れている最中に彼が話し始めた。
「その、俺さ。こういう所来たことなくて分からないんだけど...」
『あ、カラオケ?』
「..じゃなくて。その..合コン?」
と長身のくせに首をかしげる彼の姿は可愛くって可愛くって。
『...実は私と美月もなんだよ。数合わせで連れてこられました。あのリカちゃんて子とも話したことがなくて。』
「まじ?俺もそうなんだよ!帰り道に突然話しかけられて今に至るっていう...」
『なんつーかそれは連行、だね。』
「本当に。強制連行だよ。」
とハハッと笑う彼はまじで可愛いしぺロぺロしたい。
なんだか爽やかに笑う彼の前でゲスい考えをした自分に罪悪感を感じる。
隣を歩く彼の腕は筋肉がついていて、リストバンドをしている。
『ね、何か部活してるの?』
「うん、バスケ。...あ、帝光のバスケってすごいよね。キセキの世代だっけ。知ってる?」
『知ってるも何もそのバカの世代のマネやってるの。』
「え!そうなの?!うわ〜。なんか意外。しかもバカの世代って。そんなに大変?」
『うん。バスケセンスは凄いけど人として色々終わってるやつばっかだけどね。まぁ...楽しい、けど。』
「へー!一度でいいから対戦してみたいかな。一応うちの高校もなかなかバスケ強いからね。あたるといいなぁ..。」
『うん、星城付属は強いよね。』
「あ、知ってるんだ。そうだよね、マネしてると...あ、すみません。」
急に出てきた人にぶつかりそうになった。
「こちらこそすみません。....あ、」
『.....。』
出てきたのはミスディレ黒子っちいいいいだった。
「....なまえさん、このことは黙っておきます。赤司くんにバレたら大変ですからね。とばっちりは勘弁です。」
『ありがとう...って事は待て待て、赤司くんもいるの?!』
「ええ、います。」
『....うっそ、隣の隣じゃん。バレる前に帰るわ...。』
「そうした方が安全です。ところでなまえさん、今日凄く可愛いですね。」
『うーわー、さらっというのが黒子っちだよね。ありがとう。..じゃこの辺で。』
そして黒子と別れてすぐに蒼井君が話しかけてきた。
「彼はバスケ部?」
『うん、そうだよ。よく分かったね。』
「同じ匂いがしたんだよ。」
何この子天然か。
「で、帰るの?」
『うん。女の子にいじめらるよりバスケ部主将にいじめられる方が勘弁。』
「....なるほど、じゃあ僕も帰ろう。普段女の子と接しないからよく分かんないし、4対5じゃさらに気使いそうだし。」
『じゃあ途中まで一緒に帰ろうか。』
「うん、そうしよう。」
そう言い二人で部屋を開けるとそれはまぁひどかった。
シオンとリカは熱い口づけを披露してるわ、他の女共はヤケクソでAKBを歌っている。
美月の周りには男が群がっていて、美月の不機嫌そうな顔がやばい。
そして私を見て「遅い!!」と美月がつっかかってきた。
顔を近くにしながら「あんた帰ってくるの遅い!こっちは相手するの大変だったん....」と言い終える所で美月は私の後ろにいる何かを見て、驚愕した表情でフラフラとよろけながらストン、と先ほど座っていた場所に戻る。
『ちょっと、何してんの美月、「なまえこそ何をしてるの?」....は。』
この聞き覚えのある声は
「おい!赤司!見えね〜んだけど!どけよ!」
「青峰くん、今の赤司くんにそのような口のきき方はしてはいけませんよ。」
「黒子の言うとおりなのだよ。...おい!紫原!お菓子をおとすな!」
赤司様である。
先ほどの美月の表情と、今ここにいる蒼井君以外の顔を見ると美月の表情と同じであったから、後ろをみなくとも大変怒っていらっしゃるのが分かる。
そして肩にポン、と彼の腕が乗った。
「こっち見たらどう?」
私はぶんぶんと首を振るが、彼の手によって首をつかまれ制された。というか締められてるんですけども。
振り向かなければ命はないと思い、体を動かしたものの首をつかまれているから首だけ置いてけぼりだ。
「バカにしてるの?」
『違うからね?!赤司くんが首つかんでるから向けないんですけど!!』
「ああ忘れてた。ごめんごめん。」
とそれは素晴らしい笑顔だった。しかも人の首つかんどいて忘れてたってなんですか。
「にしてもお前、本当になまえなのか?」
「青峰、どこからどうみてもなまえなのだよ。」
「はいはい、撤収するよ。」
まるで試合のように私たちをこの部屋から出るように促す。
おろおろしてたら赤司くんに睨まれたので、鞄をとり、軽くお辞儀をし、部屋を出た。
出る前に恨めしそうな目で見る女の子たちと、殺す、と顔に書いてある美月の姿が見えたが見なかったことにしよう。
明日何か持って美月のところに謝罪に行こう。
「へぇ、この期に及んでまだ他の事かんがえる余裕があるんだ。」
『へ?!』
「....黄瀬も明日のメニュー楽しみにしておけよ。」
先ほどからずっと黙っていた黄瀬が赤司の言葉に体を震わせた。
そして無言のまま、キセキの世代たちと別れる交差点についた。
前に歩く赤司君はまだ機嫌が悪そうだ。正直、二人で帰るのは気まずい。
そこで隣に歩く青い顔をしたワンコを利用しようと考えた。
『あっ...私黄瀬の家に用があるんだった。』
「え?!そんな...ぐふっ。」
私は隣に並ぶ黄瀬のみぞおちを見えないように殴り、黄瀬に向けて笑った。
「あ...ああ、そうだった。確か漫画貸すんでしたッスよね..。」
『そうそう。あの車イスバスケのやつ。』
「ん?黄瀬も持ってたのか?俺も持ってんだけどさ、最新刊買ったか?あの主人公のさー、名前なんだっけ。」
「えっ...と、富本じゃなかったッスか?!!」
黄瀬は冷や汗を垂らしながら青峰に言う。
もちろん、彼はその漫画の事を知らない。
「いやいや、そんなんじゃねーって。つーか黄瀬、お前本当にあの漫画持ってんのか?この前聞いても知らねーって言ってたよな?」
「...そうだったッスか「主人公の名前は野宮、だ。」...赤司っち。」
「なまえ、バレバレだぞ。この先、俺と帰りたくないのが。ん?」
『やっだなー。そんなわけ...ないですよ...。』
「お前はとりあえず俺の家に来い。」
『あー、うん。...ってえええええ?!!両親にご挨拶?!』
「はぁ...。まぁいい。早く歩け。それじゃあ皆、明日の朝練も遅れるなよ。」
先ほどとは違い、足取りが軽いなまえだった。
fin