いいよ、きみのためなら




今日は謙也の様子がおかしかった。そう財前に言ったら「いつもおかしいやんあの人」と返された。確かに、と思ってしまったのは謙也には秘密だ。


「なぁ白石」
「ん?」
「一緒に死のう」


昼休み、普通に弁当を食っていたら「一緒にトイレ行こうぜ」みたいなノリで死のうと言われた。
だが謙也の目は本気だ。本気で俺に死のうと言っている。


「いきなりどうしたん」
「死のう」
「いやそれは分かった。でも何で死ななあかんの」
「やって、白石が死ねば俺は財前一人にしぼれるやん?」
「は…?」
「やけど一人で死ぬのは寂しいやろ?やから俺も一緒に死ぬ」


謙也はそう言って寂し気に微笑んだ。



いいよ、きみのためなら

「俺な、財前が絶対俺だけを愛してくれる訳無いって分かっとんねん。やけどそれがめっちゃ悲しい」

財前の目の前で死ねば、あいつは俺のことを一生忘れないでいてくれるだろうか。

そう問い掛けてくる謙也に俺は何も言えず、ただどうやったら楽に死ねるだろうかそれだけを考えていた。




10/10/31


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