ばいばいしたくないの




財前に好きな人がいることは分かっていた。それが俺じゃない、ということも。
それでも俺が別れを切り出せないのは、単純に俺が財前のことを好いているからで。握れば握り返してくれるこの手を、俺はとてもじゃないが手放す気にはなれなかった。


「…な、財前」
「はい」
「自分、俺と一緒におって楽しい?」
「…まぁ、それなりには」
「それなりか」


ゆっくり、手を繋ぎながら家までの道を行く。辺りはもう赤く染まり影を落としていた。


「影っておもろいよな」
「は?」
「やって見てみ?手繋いどるから両手引っ付いとるように見えるやん」
「あー…」


いっそ、この影みたいに俺と財前もドロドロに溶けて混ざり合ったらえぇのにな。
とは流石に言えなかった。



ばいばいしたくないの

お前と別れるその時が俺の死ぬ時


10/10/31




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