ねぇおねがいだから、





謙也が、俺を抱けとそう言って来た。抱けというのはつまり、エッチしろと言っているのであって。
その時俺は漸く理解した。やけに熱い身体。眩暈に息切れ。それら全てを引っくるめて考えつく先はただ一つ。


はめられた。俺は、薬を盛られたのだ、と。


「…タオル、持って来るな」


謙也の尻を伝い流れ出す自分の白獨を見て、俺はゆっくりと立ち上がった。鞄の中から練習で使ったタオルと、まだ未使用で綺麗なタオルを持ち出し、未だベッドに寝そべっている謙也の元に戻る。
そっとタオルで尻を拭くと、謙也がぼそりと呟いた。


「もったいない…」
「なにが?」
「白石の精液」


ツゥ、と謙也は尻から垂れる白獨を掬い取ると指に絡め遊びだした。そんな謙也の卑猥な様子に内心ドキリとしながらも、俺は後始末を進めていく。


謙也に気持ちを伝えたのは、およそ一ヶ月程前のこと。その時には既に、謙也は財前と付き合っていたけれど。
謙也が壊れ出したのは調度それくらいの頃からだ。財前が好きだと、毎日幸せそうに笑っていたというのに次第に謙也から笑顔が消えていった。
最初は心配したし、理由も聞いていた。だがもう諦めた。理由なんて確実に財前のことだろうし、そんな話は聞きたくなかった。


俺がずっと大切にして来た謙也を奪っていった財前が、俺はたまらなく嫌いだった。


さっさと別れれば良い。あんな奴より俺の方が謙也のことを知っているし、理解している。この男と一番長く過ごして来たのは、他でもない俺なのだから。


「……なぁ、」
「ん?」
「あー…やっぱ、何でもない」
「なんやそれ」


ゆっくり起き上がると、謙也は服に手を伸ばした。その時見えてしまった消えかけのキスマークに酷い苛立ちを覚える。
俺は理性が飛んでもキスマークだけは残さなかった。それは謙也が困るやろうと思ったから。あの、謙也を虐めて泣かせて喜ぶ歪んだ男のことだ。キスマークなんて付けていたら、確実に謙也が酷い仕打ちを受けるであろうことは目に見えていた。

だが実際、今の謙也は多少なりとも俺と財前の間で揺れている。
それは、つまり、


「…謙也、」
「へ?って、いっ?!」


無理矢理組み敷き、胸の飾りの横…心臓の部分にキスマークを残してやった。ここなら確実に見られるだろう。


「なんやの…」
「キスマーク」
「そんなん聞いとるんやなくて」
「今に分かるて、な?」





ごめんな謙也
結局は俺もただ幸せになりたいだけやねん


ねぇおねがいだから、
どうか俺に振り向いて


10/10/24

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