あの娘みたいに笑えたら 遠山と付き合い出して三日目。財前は一人、一年の教室へやって来ていた。 理由は簡単。遠山から「一緒に弁当食いたいから今日ワイの教室来てや!」と言われたからだ。遠山は学校内でよく迷子になるので、財前が行った方が早い。 「金ちゃん」 「光ー!」 財前が声をかけると、遠山はパッと顔を向けた。そして駆け寄ると手をぐいぐい引っ張り中へ招き入れる。 「光弁当はあらへんの?」 「俺はパンや。…金ちゃんは…」 「ワイはこの重箱やで!」 遠山の机の上には重箱が一つ乗っていた。この量を10分しないで平らげてしまうのだから脅威の胃袋と言えよう。 財前は遠山の前の人に声をかけ席を借り、食事を取る。 「光、ほんまにそれだけで足りんのん?」 「パン四つも食ってりゃ平気やろ普通。金ちゃんはそれ多くないん?」 「ワイ、これくらいならいつでも入るでぇ!」 「…あぁ、そうなんや」 そんなふうに遠山と財前が他愛もない話をしていると、一人の女子生徒が遠山に声をかけてきた。 (あぁ、金ちゃんのことが好きなんやな、) 財前がそう思っのには理由があった。可愛くまとめられた髪。色付きリップをしたふっくらとした唇。 一生懸命、遠山の瞳に可愛く映るようにしている。 (それに引き換え、俺は…) 財前は漠然と、金ちゃんにはこういう子の方が似合うな、と考えた。 小さく、金ちゃんに恋する可愛い女の子。 かく言う自分は、金ちゃんよりでかくて、可愛げの無い男の子。 「…で、今日一緒に帰りたいんやけど、ええかな?」 財前が気が付くと、女の子が遠山を一緒に帰ろうと誘っているところだった。 普通に考えて、これは当たり前なことなのだ、と財前は自分に言い聞かせていた。 自分は男で、金ちゃんも男。 こうなるのは当たり前だ。 それ以前に、月と太陽は側には居られない。 俺と金ちゃんはそんな関係。 それでも俺は金ちゃんと…― 「堪忍!ワイ、光と帰る約束してんねん」 「あ…そうなんや。うん、分かった」 遠山がそう言うと、女の子はとぼとぼと歩いて行った。 「…良かったん?」 「ん?」 「…女の子、」 「?、なんでや?ワイが付き合うてるのは光やろ?」 「…そうやな」 「あ!光、今笑った!」 「別に、笑ってなんかあらへん」 「笑ったやん!光今笑った!」 「あーもううるさい。さっさとそれ食べやー」 あの娘みたいに笑えたら 10/07/06 |