我慢しろなんて人が悪い



「光ー!学校行こうや!」
「…あぁ、そうやな」


昨日の一件以来、遠山と財前は期限付きの恋人同士になった。人には言えない秘密の関係。


いつものように遠山は家まで財前を迎えに来た。財前も遠山が迎えに来ることは分かっていたのだが、少しの間固まったのには理由があった。


「…なぁ、何で手ぇ繋いどるん?」
「え?そんなん恋人同士やからに決まってるやん!」
「…はは、せやんな」
「昨日母ちゃんに聞いてん!好きな子とは手繋がなあかんのやって」
「え、おばさんに言うたん?俺らのこと、」
「んーん。彼女が出来たとは言うたけど」
「あ、そうなんや」


財前は自分の左手に繋がれた遠山の右手を見た。

そういえば小さい頃はよくこうやって手を繋いでいた。その時はお互いまだ背も小さくて、目線ももっと近かった。手の大きさもさほど変わりは無かった。

いつの間にかこんなにも俺と金ちゃんは離れてしまったのか、と財前は思った。


それでも変わらないものもある。例えば、遠山の笑顔。
太陽のように輝く遠山の笑顔は、いつも財前の心を照らした。
にぱーっ、と自分を見上げ笑う遠山に、財前は自然と微笑み返す。


そしてしばらく話しながら歩いていると遠山が、あっ!と声をあげた。


「何や金ちゃん。どないしてん?」
「なぁなぁ、財前はちゅーしたことてあるん?」
「はっ、はぁ?!」


柄にも無く財前は大声を出した。その大声を不思議に思ったのか道行く人々はチラチラと財前を見ている。
その視線に気付いた財前は小さく咳ばらいをしてから遠山の問に答えた。


「…まだ、やけど、」
「光もまだなん?ワイと一緒やん!」
「…そうやな」


財前は分かっていた。これから遠山が何を言うか。


「な、光。ちゅーしよ!」
「あかん。絶対あかんで」
「えぇー何やそれー」
「何やそれーちゃうわ…」


そう言うのは本当に好きな人としかしたらいけないこと。今簡単にファーストキスを終わらせたら、いつか必ずお互いに後悔する。財前はそう思ったのだ。


「とにかくあかんからな」
「えー…」
「あかんの」
「うん…」


その後も財前は遠山を諦めさせることで精一杯だったと言う。




10/06/29

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