耳朶に噛みついた (型が残るほど)



「あぁ…ホンマかわええ…」
「何やっとんのですか部長」
「おぉ財前か。あれ見てみ」
「あれ?」


部活中、白石が何かを見ながらうっとりとしていたので財前は声をかけてみた。見当はついているが。そして案の定、白石の指差した先にはコートの中を駆け回っている謙也の姿があった。


「(あれかわええか?)はぁ、まぁ、かわええんやないですか?」
「やらんぞ」
「十万くれるんやったら貰ったる」
「やらんて!」


財前は心底どうでも良さそうな顔をし、コートの中に戻って行く。また白石がコートの中の謙也を見つめていると、白石の隣に誰かがやって来た。


「白石はまた謙也君観察とね?」
「千歳…」
「しつこか男は嫌われるたい」
「大きなお世話や」


千歳を軽くあしらってから、また白石はコートを見る。と、試合が終わったのか財前と会話している謙也の姿があった。


「(ぐぎぎ財前許すまじ…!)」


白石が嫉妬の炎をメラメラと燃やしていると、話しが終わったのか謙也が白石に近寄ってきた。心なしか顔が赤い。


「し、白石!」
「ん?なんや?」
「横、向いて」
「横?」
「おん、」
「こうか?」


謙也に言われ白石が横を向くと、何やら柔らかいものが耳に触れた。
がぶり、と言う音のした方を見ると、顔を真っ赤にさせた謙也の姿が。


「い、いつものお返しっちゅー話しやぁぁぁあ!!!」


謙也はそう叫ぶとテニスコートを飛び出した。

あとに残ったのは噛み付かれた方の耳に手をあて、真っ赤になっている白石だけだった。




耳朶に噛みついた




「謙也は大変なものを盗んで行きました…俺の心です!」
「ちゅーか部長は毎日盗まれてるでしょ」


実は謙也の行動は光のさしがね


10/07/20

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