背中を蹴りあげた (前にのめるほど、)




白石に尻を強く掴まれてから、謙也は白石に背中を向けなくなった。
そうしたら今度は前を触られたので、いよいよどうしたら良いのか分からなくなり最終的に無かったことにしよう。と自己完結をしたのだった。


「……それ、無かったことにしたらあかんやろ」
「え?」
「なんで前触られて無かったことに出来んねん!」
「や、やって、間違えたんかもしれへんやん」
「ドアホ!明らかに意志持ってるやろこれ!謙也、自分のことはもっと大事にせなあかん」


昼休み、一氏に一緒に飯を食べようと誘われた謙也は一氏のクラスにやって来ていた。
そして最近白石(の変態っぷり)はどうだ、と聞かれた謙也は素直に全てを話す。
正直一氏は謙也が心配でたまらない。あんな野獣の側に常に産まれたての小鹿のような謙也を置いているのだ。無理はない。

そうしたら案の定やばいことが起きていた。しかも本人は事の重大さに気付いていない。
ユウジは頭を抱えるしかなかった。


「んー…でも、白石めっちゃ優しいで?」
「謙也、自分優しかったら誰でもええんか」
「や、それはちゃうけど」
「それにな、優しい奴は人の尻掴んだりせえへん」
「うーん…」


謙也は、確かに普通は尻を掴んだりしないかもしれない、と思ったがそんな考えはすぐに消えた。
白石は優しくて、真面目で、純粋で、憧れ。少なくとも謙也はそう思っていたからだ。テニスに対する情熱や執念、完璧さ。どれを取っても白石は謙也にとって憧れの存在だったのだ。

そして謙也は親友の白石が大好きだ。きっと謙也は白石が完璧でなくても親友であったし、大好きであっただろう。そう胸を張って言えるほど白石が大切だった。


「なぁ謙也、悪いこと言わんから、ちょお白石気をつけた方がええで」
「……う、ん」


謙也には何故一氏が白石を悪く言うのか分からなかった。しかし、あの一氏がここまで真面目な顔をして言うのだからきっと何かあるのだろう、そう考えとりあえず白石に目を光らせよう、と決めた。

と、丁度昼休み終了を知らせるチャイムが鳴り響き、謙也は一氏の教室を後にする。

自分の教室のドアを開けると、席についている白石と目があった。


「白石!あ、次移動教室やんな。行こ!」
「…………」


謙也は自分の席から急いで教科書を取ると、ドアの方へ急いだ。


「………謙也、」
「ん?なん、」



ドカッと良い音が響いたのはそのあとすぐのことだった。



背中を蹴りあげた

「俺に黙ってどこ行ってたんかなぁ?謙也」
「なんや、白石も行きたかったん?なら次はちゃんと誘うわ!すまんなぁ」
「はぁ…ま、ええわ」
「あ、背中蹴ったことは謝れや」
「…………堪忍な」


(本当はただの嫉妬)




10/07/01

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