お尻をぎゅっとつねった
(赤みが残るほど、)




白石は謙也に依存していた。

他人には決して知られぬように、白石は謙也を愛していた。

白石の中心にはいつも謙也がいた。




「謙也、なぁ謙也」
「どないしたん白石?」


名前を呼べば振り向く彼。
白石はそんな彼が大好きだった。

忍足謙也と言うその男は、白石蔵ノ介が唯一愛した人、と言っても過言では無い。


白石の世界には色が無かった。
あるのは白と黒のコントラスト。謙也はそんな白石に色を与えた唯一の人間だ。

いきなり自分の中に入って来た存在に当初、白石は嫌悪感を抱いていた。

人の中にずかずかと入り込んで来て荒らし回る存在。
しかし白石はそんな存在を次第に心地好く感じ始める。
そして何時しか、自分だけを見ていて欲しいと考えるようになり、その赤く熟れた唇に触れたいと願うようになった。


白石は謙也に依存する。


「や、特に用事は無いねん」
「何やねんもう!」


白石は謙也の瞳に映るのが好きだ。むしろ謙也の瞳に映って良いのは自分だけだと思っている。
あはは、と笑う謙也を見て白石もクスリと笑った。
そして、まるでこの世界には二人しかいないような錯覚をする。


教室内の雑音も、目の端に映っている他人の存在も否定して、白石は謙也だけを欲した。

ここは二人だけの世界。俺達の楽園。


しかし現実はそう甘くはない。


「謙也さん」
「おっ、光!」
「ちっ!」


白石の天敵、財前光。
彼は白石の楽園を脅かす存在だった。

謙也は財前が好きだ。勿論後輩としてだが。
しかし白石にはそれが許せない。謙也が好きでいて良いのは自分だけだと思っているからだ。そして財前はそんな白石を見て、ニヤニヤと笑うのが趣味。


「今日も大変っすね。謙也さん」
「へ?何のこと?」
「財前何しに来たねん。はよクラス帰れや」


謙也は白石から異常な程愛されていることを知らない。謙也にとって白石は良き仲間であり、大事な親友。まさか依存されているなど考えるよしも無かった。


「ま、日課も終わったんで帰りますわ。…謙也さん、今度遊びましょうね?二人で」
「おん!楽しみにしとるで!」
「待てや財前!」


財前は二人で、のところを強調して言った。勿論謙也は気付いていない。可愛い後輩からの遊びの誘いとしか思っていないのだ。

そして財前は白石達の教室を出た。


「…謙也、ホンマに遊び行くんか」
「?うん、行くで?」
「……………へぇ、」


白石は立って青汁を飲んでいる謙也の隣に立ち、どうしたもんか、と考えた。


これは紛れも無い浮気だ。俺は今堂々と浮気宣言をされている。これは由々しき事態。

そして白石は今日も勝手に謙也にお仕置きをするのだ。







お尻をぎゅっとつねった


謙也の叫び声が教室に響く。
しかしクラスメイトは、あぁまたか、と思うだけで特別何をする訳でも無いのだ。




10/06/27

- 2 -