ボス!5




「謙也。明日西軍とやるから予定あけときや」
「…へ?」


いきなり白石から言い放たれた言葉に目を見開いた。

え?明日?やり合う?

「ちょ、ちょお待ちや!なんやねんそれ…!」
「…さっき小春が来てな、遠山君と財前が明日やろうって言うて来たらしい」
「なっ…」
「敵さんが覚悟決めてんねやから、俺等かて決めてかなあかんやろ…」


白石はそう言うと、ため息をつきながら俺の前の席に腰を降ろした。


「…でも何でやろ…遠山君はあれで押さえられたと思ったんやけどなぁ…」
「毒手?」
「せや。あの怖がり方やったし、俺と喧嘩なんてしたくないはず何やけど…どないしたんやろ」
「…なぁ白石」
「なん?」
「自分、遠山君殴れるん?」


俺がそう聞くと、白石は左手で自分の口元を覆い、眉間に皺を寄せた。白石が悩んでいる時にやる癖だ。


「…分からへん」


そして、少し時間がたってから白石はそう口にした。

あぁ、やっぱ白石も俺と同じやったんや。


「謙也は?謙也は財前殴れるん?」
「…まぁ、殴りたくは、ないよな。うん」
「せやろなぁ…」


どうしようもなく気になってしまう。あの子のことが。
いつだったか屋上で会った時の、あの眼が忘れられない。

あろうことか、俺は同性で敵対する立場であるあの子…財前のことが気になっているらしい。いや、もう気になっている、なんて話やない。

多分、好き。


「あー…殴りとうないなぁ…」
「せやんなぁ…かと言って、他の奴に殴らせるんもなぁ…」


二人揃ってはぁ、とため息をつく。

傷なんて付けたくない。自分が拳を奮うくらいなら、俺が喜んで殴られてやる。もし財前が俺の仲間に囲まれたとしたら、俺はボスとしての役目を果たせるのだろうか。
答えは否。俺はきっとボスという立場を捨ててでも財前を助けに行ってしまうだろう。


「…なぁ、和解するとか出来ひんの?」
「無理やろなぁ…今までそんなん聞いたことないし」
「…白石は、明日どうするん?」
「ん…、とりあえず、仲間集めて一気に畳み掛けるしかないやろな。出来れば一撃で気絶させたりたい」


言っていることは物騒だが、これは白石なりの優しさなのだろう。いつまでも殴り続けるよりは一撃で済ませた方が相手のためだ。もちろん自分のためでもあるが。


「仲間に隠れさせといて、ターゲットが俺と二人になったらやるように言うとく」


「せやな…。俺はかわしかわしやることにするかぁ」


俺かて痛いのは嫌やし、財前を殴るのも嫌や。やから相手に攻撃させてかわして行く。足には自信あるからな。


「あー…明日来なきゃええのになー…」
「せやな…あーあ、」



そして、二人で本日二度目のでっかいため息をついた。





10/07/12

- 19 -