ボス!3 「お前は馬鹿か!」 「えっ、」 「何で敵将が一人でおったんに倒さんかったん?」 「えー、と、ですね…」 謙也が敵将を討たなかった、と子分達から聞いた。しかも屋上に一人でいたらしい。 謙也は、多分敵将の財前のことを気に入っとる。顔立ちは綺麗やし、分からんこともない。分からんこともないが、それじゃこの先やって行けない。 謙也はいつか財前を討ち取る。それで全部終いにするんや。 「謙也、いつかはやらなきゃアカンねんで?」 「…おん」 「…俺等が勝つためには、俺と謙也が早くあの二人を倒さなアカンのや。ユウジには千歳はやれへん」 あの初対面の後、俺は千歳について思う所があり調べてみた。 千歳千里は転校生だった。熊本からの。そして案の定、彼は九州二翼と謳われるほどの実力の持ち主だった。 到底ユウジの細腕では太刀打ち出来ない。 「加勢せんと千歳は倒せへん。…分かるやろ、謙也」 「…おん」 謙也は財前をやらなきゃあかん。そして俺はあの子を―… 「遠山君、ちょっとええかな?」 俺は放課後、一年の教室を訪れた。中からは女子の黄色い声と、うちの子分の声。 「白石ー!どないしたん?」 遠山君はニコニコと笑いながら近寄って来た。これから何をされるかも知らずに。 「ちょっと来て欲しいねん。時間あるか?」 「今めっちゃ暇や!何かあんのん?」 「ついて来れば分かるから…な?」 心が痛まないわけがない。今から俺はこの純粋な、心の綺麗な一年生にリンチしようとしているのだから。 俺の喧嘩はパーフェクトや。常に最悪のパターンを想像し、そうならないよう計画をたてる。調査もバッチリや。この一年生にも、こんな卑怯なマネしとうない。やけどこの一年生は普通やない。俺が本気でかかっても、きっと負ける。 間違いなくこの一年生は西軍の中で一番強い。 やから、ここで討たなアカンのや。 「ついたで」 「ここ?」 向かった先は校舎裏という、何とも有りがちな場所。子分にはあらかじめ校舎の影に隠れて貰っている。 「…さ、遠山君」 「なん?」 「はじめよか、喧嘩」 俺がそういうと、子分達が一斉に飛び出し遠山君に向かって行く―…。ここまでは計画通りやった。 俺が彼等の手に持っている物を見るまでは。 「っ待ちや!!!」 気が付いたら叫んでいた。子分達が一斉に振り返る。 彼等の手には武器があった。そんなことは指示していない。 「自分ら、武器はルール違反やろ!骨でも折れたらどないするん?!」 「え、でも、」 「はよ武器から手ぇ放せ!」 俺が声を荒げそう言うと、子分達は武器を地面に落とした。 「…すまんな、遠山君。今日は無しにしてくれへん?」 「えー?!何でなん?喧嘩するんやろ?」 …普通の一年生なら、今みたいなことがあったら怖がってとっくに逃げているだろう。 しかしこの一年生は逃げるどころか、武器を持った自分よりも大きい男達に向かっていこうとしていたのだ。きっと俺が止めていなかったら今頃大変なことになっていたに違いない。 「そのつもりやってんけどな…」 「やったら白石やろうや!ワイの相手は白石なんやろ?」 「や、そうやけど…」 「ならえぇやん!ワイ、白石と喧嘩したいねん!」 ニコニコと笑いながら言う言葉じゃない…と思う。きっと彼にとって喧嘩は楽しいものなのだろう。純粋に楽しんでいる。 さてどうしたものか…、と悩んでいると、遠山君が俺の左腕を凝視していることに気がついた。 「…どないしたん、遠山君」 「し、白石の、それ」 「?…あぁ、これか?」 俺の左腕には常に包帯が巻かれている。別に理由は無いが、小さい頃から巻いていたので、巻いているのが当たり前になっていた。怪我をしたとかそう言うのではない。(前に謙也に勘違いされて、かなり心配された) 「これは―…」 「ワイ、それ知っとるで…!毒手やろ?!」 「…へ?」 「その手に触れた人間は皆死んでまうんや…!なぁ白石、白石はワイを殺すん…?」 先程あんなに喧嘩喧嘩と喚いていたこの一年生が、今ではこの通り大人しくなっている。 …これは使えるかもしれん。 「せやでー。…遠山君は、死にたいん?」 「い、いやや!」 「やったら今日は喧嘩無しな?間違えて殺してまうかもしれへんし…」 俺がそう言うと、遠山君はブンブンと首を縦に振った。 「ん、えぇ返事や。ほな今日はもう帰りー」 「お、おん!」 遠山君は元来た道を走って行った。 「…ふぅ、」 「あ、あの、白石さん?」 「…なんや」 「良かったんですか、帰らせて」 「阿呆、サシでやったら死んでまうやろ。それとも自分、俺を死なせたいん…?」 「そ、そんなわけ無いでしょう!」 良かったあれで引いてくれて。サシでやったらホンマに死んでまう。 ちゅーかあの子、ホンマに毒手信じたな…。 「…ぷっ」 謙也、お前の気持ち、ちょっと分かったかもしれへんよ。 10/06/09 |